他とは違う“彼女”
彼女と出会ったのは大学のサークルだった。
ストレートに伸びる美しい髪が印象的だったことを覚えている。
その髪は、彼女自身の纏う柔らかい雰囲気に反して、芯の強さを表しているように感じさせたのだ。
――きっと、芯が強い女性なんだろう。
出会った当初、僕はそう勝手に彼女のイメージを膨らませた。
実際、彼女は想像通り自分をしっかり持っている人で、俺と話が合った。好きな本も、好きな漫画も、音楽の趣味だって似ている。
そんな二人が仲良くなるのにさほど時間はかからず、気付けば彼女と一緒にいる時間は今までの誰よりも長かった。それだけ彼女と過ごす時間は楽しくて、一線を引いていても彼女の隣は居心地が良かった。
一方、彼女もそう思ってくれているようで、俺と一緒にいるときはいつも楽しそうに笑ってくれていた。その笑顔を見ていると、自分の中の冷たい部分が溶かされているような感覚に陥る。それがとても心地よく、つい彼女の隣に胡坐をかいてしまっていた。
そうして時間が経つにつれて、彼女と俺の関係が変わる。
彼女が、俺に告白をしてくれたのだ。
正直、返事に困った。
彼女のことはもちろん嫌いではないし、むしろ一緒にいたいと思うくらいに好きだ。それ故、彼女の告白はとても嬉しかったのだけれど、方で俺の中に一つの不安要素が浮かんでいた。
――彼女の「好き」と、俺の「好き」は違うかもしれない。
彼女はきっと俺のことを「愛している」。しかし、俺は彼女を「愛している」のだろうか。「愛する」と言う感情がいまいち分からない俺に、彼女を幸せにしてあげることはできるのか。
つまり、彼女を「愛する」自信がなかったのだ。
俺は彼女に正直に、その気持ちを伝えた。彼女を困らせてしまう――そう思っていたのに、想像に反して彼女は優しい口調で言った。
「それでもいい。それでも、君が私のことを好きって、私と一緒にいたいって、思ってくれているのなら、私はそれだけで嬉しいよ」
俺は驚いて、彼女の顔を見る。彼女はとても優しい、俺の大好きな笑顔を浮かべていた。
――ああ、愛しいな。
そう思ったら、思わず彼女に唇を重ねていた。彼女の瞳が驚いたように丸くなるのが分かる。その様子がまた可愛らしくて、僕は彼女のことを「愛している」と錯覚してしまった。
名残惜し気に唇を離すと、彼女と視線が交わってなんだか気恥ずかしい気持ちになる。彼女も僕と同じ気持ちだったらしく、照れたように笑っていた。
彼女は覚悟を決めたように一息つくと、真直ぐに俺を見つめる。キラキラとした、綺麗な瞳だと思った。
「君の好きが私の好きとは違っても、私は君の一番側にいたい。私の恋人になってくれますか?」
彼女の素直な言葉に、俺は先程の錯覚から解き放たれる。
――本当に、彼女を「愛している」のか? 今は愛せずとも、これから愛することができるのか? 愛する感情を知らない俺が、彼女を幸せに出来るのか?
そんな迷いが脳裏をよぎる。しかし、俺を真剣な彼女の顔を見たら、断ることなどできなかった。
この決断が彼女を傷つけることになっても、俺はただ、彼女の隣にいたいと思ってしまったのだ。
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