15-9 小タンク

 小タンクは、一般民に使われていない地下倉庫を間借りした空間にあった。

 むき出しの石壁に囲まれた狭い倉庫空間には、魔術に用いる鉱石やら、主のいない剣、書庫に収まらなかったらしい魔術に関する本などが、雑多に収められている。


 ここにたどり着くまで、幸運にも、それほど大きな障害はなかった。戦いの中にある兄弟たちをその場に置いて去る罪悪感には、何度も足首を掴まれたが。

 ライナルトは、ウィリアムを隅に控えさせ、床にじかに置かれた小タンクのそばにかがみ込む。



 小タンクは、木の枠にはめ込まれた、大人の男の胴体ほどもある鉱石だった。

 魔力の貯蔵量を増大させるため、表面には無数のルーン文字が刻まれており、『おつとめ』によって注ぎ込まれた大量の魔力から、淡く紫色に輝いている――はずだった。


「次兄様、それ……」


 ウィリアムが、不安そうに問いかける。ライナルトは無言のままに頷いた。

 小タンクは今、光を失い、暗くくすんだ色をしていた。稼働していた二つの小タンク、その両方がだ。



 小タンクは、魔力を蓄積するたび劣化していく。とはいえ、予備として準備されていた小タンクを稼働させたのは今回がはじめてであるし、二つのタンクに魔力を分散させていたことを考えると、こんなにも早く限界を迎えるはずがない。

 ライナルトは自ら小タンクの起動に立ち会っていたが、動かし始めた昨日の時点では、小タンクに異変の兆しはなかった。



 予備の小タンクは、もう一つ残っている。だが――。いやな予感を覚えたライナルトは、試しに、残った小タンクに魔力を注ぎ込んでみる。

 鉱石は、一瞬だけぼんやりと光を放ったあと、込められた魔力をはじき返し、黒々としてしまった。

 行き場を失った魔力が、バチッと音を立て、ライナルトの指先を痺れさせる。


「これもダメ、か……」


 ライナルトのつぶやきは、絶望的な響きを帯びていた。



 小タンクから設備への魔力供給がうまくいっていないだけであれば、手の打ちようはあった。

 だが、小タンクがダメになっているということは、支部設備に供給すべき魔力そのものが失われているということだ。支部内の必要な魔術を稼働させるためには、新たに、どこかから魔力を引いてくる必要がある。

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