15-10 呼び声

 幸い、魔力を供給するためのパスは残っている。ここから魔力を注ぎ込めば、拠点内のすべての照明・転移魔術・防護魔術を動かすことができるだろう。

 もしライナルトがそんなことをすれば、時間稼ぎにもならないうちに失神するだろうが。


「次兄様、長兄様をお呼びしましょう。長兄様なら、どこにいたって、すぐに駆けつけてくれます。……絶対に!」


 ウィリアムの言葉に、ライナルトは、うつむいていた顔を上げる。


 ジェラールの継承者としての能力は、ライナルトの比ではない。ライナルトにできなくとも、彼であれば、しばらくフラメリア支部に明かりを灯しておけるかもしれない。



 ジェラールの安否については考えないこととして、問題は、彼の居所だ。ライナルトには、彼を呼び戻す方法に心当たりがあった。


「方法がないわけではないが、もしそれでジェロアが来なければ、俺もお前もおしまいだぞ。それでもいいのか?」


「平気です。僕は勇敢ですから。ワルターより、よっぽど」


 見習い魔術師の決意表明に、ライナルトは力の抜けた笑みを浮かべた。

 フラメリア支部の魔術師として戦い、死んでいったワルターの名を出すことがどれだけ重いか、わからないウィリアムではない。


 ならば、その覚悟に応えなければ――ライナルトは床に片膝をつき、首をたれ、まぶたを閉じた。

 意識を集中させ、『おつとめ』でするように、魔力を練り上げ、術の形でない素の状態で放出する。


 目に見えず、それだけでは何の効果もない魔力は、しかし、継承者であれば嗅ぎ分けられる。

 ライナルトの魔力は、そのまま彼のにおいを帯びた〈気配〉となり、ライナルトを中心に広がっていく。そしていずれ、どこにいるとも知れないジェラールへと呼びかけてくれる――自分ライナルトはここにいる、お前を必要としている、と。



 この呼びかけが、実際にジェラールのもとに届くかはわからない。この空間の地理的な位置が、支部の出入り口である廃倉庫からどれほど離れているかもわからないのだから。

 それに、ライナルトの気配を〈とらわれ者〉が察知すれば、この場所も狙われることになる。膨大な魔力を放出した後のライナルトが、どこまで戦えることだろう。



 ――それでも、今できることはこれしかない。どうか戻ってくれ、ジェロア。



 まなうらに白い光が散り、頭がぼうっと熱を持つ。ライナルトは、自らの気配ができる限り遠くまで広がるよう――どうかジェラールのもとに届くよう、力を振り絞って魔力を編んだ。

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