14-9 いつかの鐘

 隠し扉の向こうを確かめたルーヴェンスは、少しはしごをくだり、隠し扉と、その枠に触れる。ゲートの状態を調べているのだろうか。



 ルーヴェンスを咎めようと、彼の足もとに駆け寄ったウィリアムは、彼の真剣なまなざしを見て、投げつけるつもりだった言葉を飲み込んだ。

 代わりに、プライドを押し殺しつつ、できるだけさりげなく聞いてみる。


「もしかして、何かわかった?」


 敵であるルーヴェンスに、支部の事情を知られるのは望ましくない。

 一方で、ウィリアムひとりではいかんともしがたい状況において、優れた魔術師である彼がどんな判断をするか、気になるところではあった。



 声をかけられたルーヴェンスは、鬱陶しげにウィリアムを見下ろした。彼の視線に厳しいものを感じたウィリアムは、わずかに体をこわばらせる。


 気詰まりな沈黙のあと、ルーヴェンスが、ふいとウィリアムから視線をそらした。彼は、頭上の隠し扉を下ろしつつ、口を開く。


「転移魔術そのものは残っている。術を動かすエネルギーが不足している状態、といったところか」


「じゃあ、それに魔力を注ぎ込めば……?」


「いや、そうもいかない。魔力供給のパスが限定されている。魔術そのものをいじってみればできるだろうが、私は部外者だからね」


 ルーヴェンスはすげない調子でそう言うと、隠し扉がきちんと閉まっていることを確かめてから、はしごを降りた。



 直後、隠し扉の向こうで、また鐘が打ち鳴らされる。

 カーン、カーン、カーン――聞いていると、妙に胸がざわざわとしてくる音だ。ウィリアムは、服の胸のあたりを握りしめた。


「何の音だ? 私がここに来るまでには、静かだったんだが」


 ルーヴェンスがぼやく。

 ウィリアムは、どこかで聞いたような音の正体を思い出そうと、記憶の底を探った。



 ウィリアムが見習い魔術師になるより前、もっと世界がおぼろげだった頃。遠くで聞こえる鐘の音と、自分を抱きしめるジェラールの温かさ……。

 そうだ。七年前、火の都フラメリア支部が一般民に襲われた、あのとき。ウィリアムは確かに、あの鐘の音を聞いたのだ。

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