14-8 戻る手段
ウィリアムは、ほてったような心地のまま、おぼつかない手つきではしごを滑り降りた。
頭上から差し込んだ橙の光が、一瞬ウィリアムの足もとを照らし出し、隠し扉が閉ざされるとともに消えていく。
照明と転移魔術が同時に効力を失ったということは、この空間において、その魔力供給に何らかの問題が生じたということだろう。そこまでは、ウィリアムにもわかった。
だが、支部設備に問題が起きたときに見習いがすべきことは、「上の魔術師への報告」だ。自身で対処する方法を、今のウィリアムは持ちえないのだった。
「落ち着け、大丈夫……。エントランスに戻れないなら、報告はできないとして……。じゃあ、復旧か助けを待つ? ううん、まずは他に戻れる手段を――」
「エントランスに戻れない、だって? どういうことなんだ。何が起きている」
ウィリアムが自らに言い聞かせるようにして状況を整理していたところに、ルーヴェンスが口を挟んだ。
思考を邪魔されたウィリアムは、恨みがましくルーヴェンスを睨みつける。
ただでさえ見習い魔術師一人では対応しかねる状況を、彼の存在がさらに複雑にしていた。
「別に、たいしたことじゃない。ちょっと設備にいろいろあったみたいだけど、きっと、すぐ元に戻るよ」
「私との約束をうやむやにするための口実ではないだろうね」
その疑り深い言葉ごと無視して、ウィリアムは、ルーヴェンスの前を素通りする。
もし魔力供給が復旧しなくとも、戻ってきたライナルトが異常に気づいてくれるはずだ。ルーヴェンスへの説明も、彼に任せればいい。
とはいえ、ライナルトが戻るまでに、できる限りのことはしておきたい――ウィリアムは、この空間において、稼働しているゲートが隠されていないものかと調べ回った。
結局、囚われた非魔術師たちのすぐそばまでくまなく調べても、それらしいものは見つからなかったが。
ウィリアムが失望とともに振り返ると、そこに突っ立っていたはずのルーヴェンスがいなくなっていた。
よく探してみると、隠し扉の方に、はしごに足をかけた彼の下半身だけが見てとれる。先ほどのウィリアムのように、隠し扉の向こうに顔を出しているらしい。
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