14-10 取引

 血の気が引くのを感じたウィリアムだったが、すぐに、今の火の都フラメリア支部なら大丈夫だ、と思い直した。


 現在の火の都フラメリア支部拠点の大部分は、一般民の居住区域を間借りして構成されているが、魔術師がその空間にいる間、外からの干渉を受けないよう魔術で守られてもいる。



 拠点内にいさえすれば、万が一にも一般民に見つかることはない――と、そこまで考えたところで、ウィリアムははっとした。


 支部を構成するすべての空間は、魔術によって守られている。

 だが、その魔術もまた、照明や転移魔術と同じく、タンクから供給される魔力で動いていたのではなかったか?

 もしや、ウィリアムがいるこの空間は、まったくの無防備なのではないか?


 

 状況を確かめるためにも、なんとかしてエントランスに戻らなければならない。

 ウィリアムは、周囲を見回した。隠し扉の他、使えそうなゲートはない。頼れる兄弟もいない。唯一、可能性があるとすれば……。

 見上げた先、ルーヴェンスと視線がかち合う。



 他に方法はない。ウィリアムは、情けない気持ちになりながらも、ルーヴェンスにこう言った。


「あの鐘は、非魔術師アンピュイスたちが、魔術師を探しているときに鳴らす鐘……なんだと思う。

 あいつらにとっては、火の都フラメリア支部の魔術師もお前も変わらないんだから、こんなときに外に出たら、お前だって無事じゃ済まないよ。だから、その……しばらく、休戦としない? エントランスに戻れるまで」


「ふむ。ここにいるとまずい、と?」


 なんとかごまかそうとしていたところを突かれ、ウィリアムは言葉に詰まる。



 設備トラブルについて明かしてしまえば、向こうがどんな手を打ってくるかわからない。さらに厄介な状況になることも考えられる。


「……まあいい。君たちの事情に興味もないし、私一人ならどうとでもできるところだが、連合属の魔術師に貸しを作っておくのも悪くない。協力してやるとしよう」


 言い訳を探していたウィリアムは、ルーヴェンスの好意的な返事に驚いた。だが、つけ足された条件には、心底渋い顔をした。


「ただし、少年。君が素直に〈手伝ってください。お願いします〉と言えたらね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る