14-2 増進魔術

 気まずさから逃れるように考えこんでいたウィリアムは、やがて、ライナルトが自分をここに残した理由に思い至った。


 ライナルトは、ワルターやロデリオにはできない、しかし、ウィリアムにはできるだろう何かに期待したのではないだろうか?

 たとえば……子どもが相手だと油断しているだろう敵から、情報を引き出すことに。



 ウィリアムが仕掛けようと覚悟を決めた、ちょうどそのとき。唐突に、ルーヴェンスが見覚えのある魔術杖をウィリアムに差し出した――先ほど、ウィリアムから取り上げたものだ。


 反射的に魔術杖に手を伸ばしかけたウィリアムは、しかし、ためらいにその手を止める。


「杖を返しても平気だって、甘く見てるんだろ。どうせ、なにもできやしないって……」


 すべて言い終える前に、鬱陶しげに目を眇めたルーヴェンスが、魔術杖をウィリアムに向けて放り投げる。

 ウィリアムは、あわてて魔術杖に手を伸ばし、宙で受け止めた。


「他人に自尊心の世話を焼かせようとするのはやめたまえ、少年。そもそも、君には杖など必要ないだろう? 先ほどのあれが、君の魔術であるならね。

 ……そうだ、ぜひとも聞かせてもらいたい。君が使ってみせたあれは、何だね? ライナルト青年が放った魔術の効力を高めたように見えたが」


 魔術杖をしまったウィリアムは、ばつの悪い思いで、鳥の巣頭をかく。



 ルーヴェンスの指摘は、一部においては正しく、また一部においては間違っていた。

 ウィリアムはまだ、魔術杖がなければ、ろくに魔術を扱えない見習い下位魔術師だ。ただ、先ほどの魔術だけが特別なのだ。



 ルーヴェンスに不正という借りがあることを思い出したウィリアムは、しばらく悩んでから、正直に答える。


「……そうだよ。僕も、まだよくわかっていないけど」


 〈他者の魔術を強める魔術〉――『増進魔術』。ジェラールは、ウィリアムの魔術をそう呼んでいた。

 誰もが扱えるわけではない魔術だと、いつかのジェラールが興奮気味に説明してくれた……のだが、難しい言葉が次々と飛び出してきたため、ウィリアムにはいまいち理解できなかった。



 ただ、この魔術が、ジェラールが一見習いであるウィリアムを気にかける理由になっていることは間違いない。

 ウィリアムにとっては、それだけわかればじゅうぶんなのだった。

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