14-3 特別なだけ
むやみに他人に明かさないようにとジェラールにきつく言いつけられていることもあって、今のところ、この魔術のことを知っているのは、彼とカキドだけだ。
二人が伝えていなければ、ライナルトでさえ知らないかもしれない。
本来であれば、こんなよそ者に話すことではないのだが……。
ウィリアムが後ろめたい気持ちになった一方で、ルーヴェンスは、灰色の瞳をぱっと輝かせる。
「『増進』の魔術だって! 非常に興味深いな。どんな仕組みになっている? 君は疲れないのかね? 他者の、それも上位魔術師の魔術にどうやって干渉した?」
「わ、わからないんだよ! 難しいことは全然……」
突然の質問の嵐に、ウィリアムは思わず本音で応じて――同時に、前にもこの感覚を味わったことがあると気づいた。
好奇心を隠しきれていないルーヴェンスの表情に、『増進魔術』のことを知った時のジェラールの顔が重なる。
ウィリアムは、直感的に理解した。目の前にいるこの男は、魔術が本当に好きなのだ。何かのための手段である以前に、魔術そのものを純粋に愛している。
手段としての魔術を熱心に学ぶ一方で、その根本には、魔術に対するあくなき知的欲求を持つジェラールと同じように。
ルーヴェンスに、わずかながらジェラールと似たところを感じたウィリアムは、先ほどの彼の言葉が、なおのこと許せなくなった。
「……兄弟を守れない魔術なんて、あったってしょうがないんだ。『増進』魔術だって、めずらしいばっかりで、自分の魔術にだけは効かないんだから。どうせ〈特別〉なら、もっと強い魔術が使えたらよかった」
ウィリアムは、恨みがましい気持ちでつぶやく。
『増進』魔術は、なぜだか、ウィリアム自身の魔術にだけは効果を示さなかった。
他者の魔術は強化できるが、自分の魔術は強化できない魔術に、ウィリアムはあまり価値を感じられないのだった。
そんなものがあったところで、ウィリアムが一人では戦えない未熟な下位魔術師であることに変わりはないのだから。
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