14-1 違和感

 ――〈しばらく前に、支部を出て行かれました〉。

 ワルターの言葉を聞いたライナルトの動揺は、その場にいた誰の精神にも響くほどのものだった。



 ジェラールが火の都フラメリア支部拠点を出たという事実の衝撃だけではない。

 知らなかったとはいえ、決闘自体の前提がひっくり返された――差し出せないものを秤にのせていたことの重大さが、ライナルトにはよくわかったのだろう。



 決闘における約束を反故にすれば、連合規則に則って罪を問われることになる。

 相手がはぐれ魔術師であっても、正しいルールのもと戦ったのであれば、連合属魔術師同士の場合と同じように、決闘の結果は尊重されるものだ。



 すぐにジェラールを連れ戻さなくてはならない。ライナルトは、決闘相手であるルーヴェンスへの詫びもそこそこに、〈すぐに戻る。何かあったらルカを探せ〉と言い残し、支部を飛び出していった。


 決闘の結果ももちろんだが、実際のところは、ジェラールの安否こそが心配で、気が気でなかったのだろう。

 


 ジェラールを案ずるライナルトの気持ちは、種類は違うとしても、よく理解できる――エントランスの地下部に残されたウィリアムは、二人の親しい兄貴分のことを思いながら、ちらりとルーヴェンスの方を見やる。



 ワルターの告白の後、一悶着あって、ロデリオとワルターを解放する代わりに、ウィリアムが人質としてここに残ることになった。

 ロデリオは持ち場に戻り、ワルターも、ジェラールがライナルトと入れ違いに帰ってきた際ジェラールに状況を伝える役目とともにエントランスに戻されたのだった。


 ルーヴェンスの方はというと、〈話が違う〉とは言ったものの、ライナルトを強く責めることはなく、人質を入れ替えることについても二つ返事で受け入れた。



 不正を犯したウィリアムと二人きり、理不尽に待たされるばかりの状況になっても、ただ壁にもたれて突っ立っているばかりのルーヴェンスに、ウィリアムは内心の疑念をさらに募らせる。

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