13-10 不正
「馬鹿にして、馬鹿にして――っ!」
吐き出した言葉とともに、ウィリアムの目から大粒の涙がひと筋、流れ落ちる。少年の潤んだ瞳には、強い怒りの念がにじんでいた。
「魔術は戦うためのものだ!
ライナルトはたまらなくなり、息を切らすウィリアムを抱きすくめる。
魔術師とて、好きで戦っているわけではない。つかの間の安息を守るため、戦わざるを得ないだけだ。
けれども、幼い子らにまでそれを告げるのは、あまりにも酷なことだった。
代わりに、戦うことは
断じて、消耗するばかりの戦いの中、無意味に散るわけではないと――そう教えてきた。
彼らが、自分のおかれた環境を、魔術師であることを、嘆くことのないように。
ウィリアムもまた、美しく飾り立てられた教えとともに育った見習い魔術師だ。そんな彼にとって、ルーヴェンスの言葉は、ひどい侮辱に思えたに違いない。
あるいは、怖かったのかもしれない。これまでの短い人生のすべてを、そのあり方を否定されることが。
ウィリアムの怒鳴り声は、しだいに、すすり泣きへと変わっていった。
ライナルトは、嗚咽の間に〈ごめんなさい〉とくり返す彼を強く抱きしめ、何度も頭をなでてやる。
賢いウィリアムなら、自分がしてしまったことの意味も、もうわかっていることだろう。
「使うべきときではなかったにしろ……先ほどの魔術には、正直驚いた。どんな手を使ったのか、状況が落ち着いたときに聞かせてくれ」
ライナルトは、ウィリアムに笑いかけてから、ルーヴェンスの方を見返る。
ルーヴェンスの表情は厳しい。ライナルトとの間に構築されかけていた儚い信頼は、先の一撃で突き崩されてしまったらしい。
ウィリアムの行動は、明らかな不正行為だった。ライナルトの選んだ審判による不正であるからには、ライナルトの責任も問われることになる。
「連合規則に則って、こちらの敗北を認めよう。すまなかった」
ライナルトがルーヴェンスに頭を下げると、かたわらのウィリアムはあわてふためき……すぐに、自身もぺこりと頭を下げる。
ルーヴェンスの方は、罵りの一つもなしに、黙って二人を見つめているだけだ。勝利の喜びとはかけ離れた、うち沈んだ表情で。
「約束は守る。支部長との交渉の機会を作ろう。ウィリアム、ジェラールを呼びに――」
「申し訳ありません、次兄様っ!」
ライナルトがウィリアムに指示を下そうとした、そのとき。ワルターが唐突に声を上げた。
一同の視線が集まる中、ワルターは、言いにくそうに続ける。
「長兄様のことなんですけど……」
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