13-4 引き金

 長くも短いにらみ合いの末。口を開いたのは、ライナルトが先だった。

 二音節程度のルーン列に応じ、判を押すような速さで魔法陣が編み上げられる。ぎりぎりまで情報量を抑えた、小さな魔法陣だ。



 決闘での最初の一波は、ほんの小手調べだ。これで勝負が決まることは、下位魔術師相手ならまだしも、ほぼありえないと言っていい。


 低コストな魔術を選んだのには、この時点での消耗を抑える意図ももちろんあった。とはいえ、まったくそれだけというわけでもなかった。



 ライナルトは優れた上位魔術師ではあるものの、継承者としての素質では、ジェラールやカキドに遠く及ばない。

 そんな彼が、火の都フラメリア支部を支える一人としての力不足を補おうと考え抜いた結果が、無駄をそぎ落とし、極限まで合理的に、効率的にと再構成した魔術だった。


 低コストな魔術――転じて、魔術の発動速度と術者の持久力こそが、ライナルトの最大の武器でもあるのだ。



 クロスボウの引き金を引いて矢を放つような速度で、短いルーンが宙に炎の矢を形づくり、ルーヴェンスへと放つ。

 


 視界の外から放たれた魔術に危なげなく対応できるほどの魔術師なら、この程度、さばけないはずがない。

 もし的中しようとも、軽いやけどを負う程度だろうが……。直前までルーンを唱える素振りを見せなかった相手に、ライナルトは一抹の不安を抱いていた。

 


 だが、それはまったくの杞憂だった。



 一瞬、時が止まって——。ライナルトとルーヴェンスの間で、白い光が爆ぜる。

 爆風の代わりに、地下には不釣り合いなほど澄んだ風が、ひんやりとした靄をはらんで、ライナルトの傍を抜けていく。



 双方の放った、全く同じ力かつ正反対の属性を持った術同士がぶつかり合い、完全に相殺された?

 ライナルトの背すじを、冷たい汗が伝う。

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