12-6 英断のルーン
ウィリアムが動けなくなったことを確かめた男が、彼のそばまで歩み寄り、魔術杖を拾い上げた。
――と。ウィリアムの動揺に、自らの精神が『同調』しかけたのを感じたワルターは、あわててウィリアムから目を背ける。
魔術杖を敵に奪われることは、魔術師、特に下位魔術師にとっては、口を塞がれることに次いで屈辱的だ。
当のウィリアムは、気丈にも男を睨みつける。その目は、いまだ敵愾心に滾っていた。
「僕のことはどうにでもすればいい。けど、その人たちを傷つけるようなら、絶対に許さないっ!」
〈どうせ勝てない相手だ。せめて、あまり刺激しないように〉――ワルターのそんな考えが、ウィリアムに伝わるはずもない。
伝わっていたとしても、ウィリアムがそれを受け入れるとは思えなかった。なにしろ、ウィリアムが言ったことは、まったくの虚勢とも言い切れないのだから。
ウィリアムの性格からして、支部のためであれば、命を捧げることにも躊躇はないはずだ。彼の場合は、支部のためというより、〈ジェラールのため〉かもしれないが。
かばう相手が折り合いの悪いワルターであることも、その事実の前にはさほど重要でないのだろう。
幸いにも、男がウィリアムの挑発に乗ることはなかった。彼は、ウィリアムを静かに見下ろし、つぶやく。
「こんな子どもにまで……」
ワルターの方からでは男の表情は見えないが、少なくとも、彼にこれ以上ウィリアムをどうこうする意思はないように思われた。
男の態度が変わると、ウィリアムの目つきにも、わずかに変化が表れた。それは、和らいだというよりも……。
永遠にも思われた、実際にはごく短い沈黙を、男の詠唱が断ち切った。彼の足元から宙に向かって光の柱が立ち、ルーンで編み上げられた盾となる。
コンマ一秒遅れて、ウィリアムのさらに後方から飛んできた光の破片が、次々と〈盾〉に突き刺さった。
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