11-7 共犯者

 ややきつい顔立ちの、しかし美しい女だ。ここにやってきたときは、顔に似合って気が強かったが、今ではすっかり従順になっていた。


 このところ、ワルターが一番気に入っていた女だが、ロデリオのことだ、それを知っていて、あえて手を出したのだろう。

 だが、今のワルターの内に、怒りはわいてこなかった。



 ワルターは女のあごをつかみ、自分の方を向かせる。女の怯えたまなざしが、ワルターをこと、愉快にさせた。


「ただ飯食いの非魔術師アンピュイスどもにも、役に立たないなりにできることがあるってもんだ。なあ?」


 ワルターは、泣きぬれた女の頬を親指で擦りつつ、客人に同意を求める。



 受付係を言いつけられているうちは、いつ指導員が見回りにやってくるかわからないため、受付カウンターを空けるわけにはいかない。

 とはいえ、指導員が見回りに来る一瞬を除いて、エントランスでは、木偶が静かに佇んでいるきりだ。抜け出すのは、そう難しいことではない。


 つまりは、退屈な罰を逃れ、秘密の遊びに興じるためには、体のいい〈言い訳〉があればいいのだ。カウンターを空けていても咎められないような、正当な言い分が。

 そこに第三者の口添えが加われば、罰を与えられることはまずないだろう。


 ワルターは、男への対応に迷った末、彼を味方につけて、いい思いをしてやろうと考えついたのだった。


 

 けれども男は、ワルターの誘いに乗ってこようとしない。立ちつくして、ワルターを見つめている――フードに遮られて、その視線の向く先はわからないが、おそらくは――だけだ。


「なんだ、本部にはもっといい女がいくらでもいるってか? うらやましいこった。まあ、こう見えて結構具合はいいんだぜ。貸してやるから、試してみろよ」


 ワルターは、女の長い髪をつかんで引き起こした。女の上体が、客の目前に無防備に晒される。


 不安定な膝立ちになった女が、逃れようと身をよじらせると、ワルターは女の足首を折れんばかりに踏みつけた。

 牢の隅で縮こまり、ワルターらの様子をうかがっていた二人の娘が、小さく悲鳴を上げる。

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