11-4 隠し扉
ワルターは、鍵についた紐を握り、機嫌良く振り回しながら歩く。冷たく湿った空気の中、彼の口笛は、むき出しの岩壁に囲まれた狭い空間に、不快なほど響いている。
フードを深くかぶったままの客人が、黙ってワルターの後に続いた。
エントランスの床には、隠し扉があった。
ワルターはこれを、ひどい悪さをしでかして、受付係に回されることをくり返しているうち、偶然見つけ出したのだった。
隠し扉からはしごを伝って降りれば、どことも知れない坑道に出る。細長い空間の一端は埋め塞がれ、もう一端には鍵のかかった木扉が構えていた。
タンクから魔力供給を受ける明かりが壁に取りつけられているあたり、ここも間違いなく
だが、ワルターが通った隠し扉の他に、この空間への入り口はない。
出入りする者などほとんどいないはずのエントランスからのみ訪れることのできる、奇妙な空間。
ワルターは、その奥部につながる扉に歩み寄ると、扉を封じる錠に、持っていた鍵――手先が器用な悪友を呼びつけて作らせた合鍵を差し込んだ。
一般民が使うような、魔術の絡まない単純な鍵だ。技術のある者にしてみれば、こういった鍵の複製は難しくないという。
古びた木扉の向こうには、扉の手前の坑道と同じく、通路らしき空間が続いていた。埋め塞がれた最奥の突き当たりまでの奥行きは、大人の足で十歩分もない。
先ほどの坑道部と違うのは、明かりが十分でないことと、右手の壁を掘って作られた二つの部屋の存在だ。
手前側の部屋には布がかけられ、中の様子はうかがえない。そして、奥の部屋では……。
扉を開けたワルターは、人肌を打つ音と、喘ぐような悲鳴を聞いた。
先客がいる――ワルターは舌打ちをしてから、人の気配のする奥の部屋の方へ、つかつかと歩み寄る。
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