11-5 悪友

「――おい! ロディ、マッド! お前ら、いつの間に入りやがった!」


 先客の正体は、ワルターの悪友である二人、〈ロディ〉ことロデリオと、〈マッド〉ことマーティンだった。

 目の前のことに夢中になっていた二人は、ワルターに気がつくや、ばつが悪そうに視線を交わす。



 奥の部屋――いいや、部屋という表現はふさわしくない。鉄格子で内外を隔てられたそれは、牢と呼ぶのが似つかわしかった。

 布で隠された手前の部屋にも、同じように鉄格子が取り付けられている。


 とはいえ、中を見れば、それほどひどい環境ではないことがわかる。

 寝具と部屋は不衛生でない程度に整えられ、床を掘り下げて作られた便所にも、臭いが出ないよう蓋がかぶせられている。 

 食事も、火の都フラメリア支部の者たちと同じ内容のものが出されているようだった。


 特に気になるとすればその狭さだが、これは、火の都フラメリア支部においては避けがたいことだった。

 一般民が余らせた空間を継いで作られた支部内に、広いと言える場所は、そうないのだから。

 


 それぞれの牢には、ときどき顔ぶれが変わるものの、常時、女が二人か三人置かれていた。ほとんどは、ここ火の都フラメリア出身の若い娘だ。


 彼女らをここに連れ込んだ何者かの目的が苦痛を与えることでなかったのは、彼女らに与えられた環境を見れば明らかだ。

 だがそれは、好き勝手しても表立って咎められないだろうおもちゃを見つけ、浮き足立ったワルターにはどうでもいいことだった。


「わ、悪かったって。お前が居眠りなんてしてるから――」


 ワルターは、ロデリオの言い訳を最後まで聞くことなく、彼の横っ面に拳をたたき込む。

 ロデリオが尻もちをつくと、彼に腰をつかまれていた女も、弾き飛ばされて床に転がった。


 やはり火の都フラメリア生まれであることが明らかな、赤毛に鳶色の瞳をした女だ。はだけた服から覗く肌には、消えかけたものからできたばかりのものまで、暴力の痕跡がいくつもはりついている。


 露出した女の内腿を伝う、ぬらりとした光の筋がワルターを高ぶらせ、彼の怒りをさらにかき立てた。

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