11-3 思いつき

 ジェラールを外に出したと知れたら、今度はどんな罰を与えられるかわからない。加えて、本部の人間まで関わってくるとなれば……。

 魔術杖を取り上げられる以上の罰を想像しようとしたワルターは、何も思い浮かばないことに、かえってぞっとした。


 ここはどうにかごまかして、帰ってもらうしかない――ワルターは、男があっさり諦めてくれることを願った。


「約束はしていない。……とすれば、どれくらい待てばいい」


 男は、不快に思った様子もなく、淡々と言う。

 案外話の通じる相手かもしれない。ほっとしたワルターは、いよいよ強気で男を追い返そうとした。


「多分、二時間か、三時間……いや、明日になるかもな。そこで待つか? 椅子はないが、床なら見ての通り、空いてるぜ」


 男は黙りこんだ。フードの向こう、アイスグレーの光が、冷たくワルターを見据える。


「脅しという手段は好かない。私を欺こうとするな」


 男は、低い声で言った。


 〈脅したくないから敵対するな〉などという言い草があるだろうか? ワルターは乾いた笑いを漏らしつつも、肌が粟立つのを感じていた。

 男はおそらく、その気になれば、いつでもワルターを潰せると確信している。そうでなければ、こんな言葉がでてくるはずがない。



 この男が何者かは知らないが、少なくとも、ワルター一人では対処しかねるのは確かだ。素直に帰ってくれればいいのだが、そんな気配もない。

 男をこのままエントランスで待たせて、外界から戻ったばかりのジェラールの手を煩わせるのは気が引ける。かといって、支部員の生活圏に入れるのも危険だ。



 となれば、なんとか時間をかせぐか、あるいは——。考えているうち、ワルターは、素晴らしい思いつきを得た。


「わかった、わかったよ。しょうがねえなぁ……。本部からの客を、何もなしに放り出すのも良くないしな。まあ、ちょっとついてこいよ。侘び代わりに、いい思いをさせてやる」


 腰に差していた鍵を男の目の前にぶら下げ、ワルターはにんまりと笑った。

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