11-2 アルベリアからの訪問者

 満足げなワルターに対して、その腹は、絶えず不満そうに、空っぽであることを訴えてくる。



 火の都フラメリア支部の食事は、若者にはあまりに少なすぎる。

 普段は、くすねたおやつで空腹をごまかしているワルターだが、今日のおやつは、ジェラールに譲ってしまった。


 それでも、敬愛するジェラールの役に立てたことが、ワルターには嬉しくてたまらないのだった。



 ふと。前触れなく、支部の玄関たる扉が開く。

 ジェラールが帰ってきたと思ったワルターは、失礼のないようにと身構え……ジェラールとはあきらかに対格の異なる人影を見て取ると、警戒心を強めた。


 背丈からして、おそらくは男。マントで体をすっぽり覆い、フードを深くかぶっているために、体の輪郭がかろうじてうかがえる程度だ。

 大きな荷物は持っていないが、ふらっと訪ねて来たにしては、どこかものものしい雰囲気がある。

 


 人影は、早足でカウンターに歩み寄り、ワルターに紙切れを差し出す。

 それを受け取ったワルターは、ぎょっとした。


 樹の都アルベリア本部で発行された紹介状だ。副本部長のスタンプに、署名までついている。副本部長のお墨付き、といったところか。

 これがあれば、どこの支部にも、自由に出入りできることだろう。


「あんた……本部から?」


「君たちの長に用がある」


 この声、やはり男だ。澄んだ、よく通る声だった。人影は、ワルターの問いには答えず、用件のみを口にした。

 〈感じの悪い奴だ〉とワルターは思ったが、それを横に置いても、まずい状況だ。支部長ジェラールは、つい半刻前に見送ったばかりなのだから。



 昨日から、とかくこうなのだ。

 受付係を命じられて後、魔術杖も取り上げられたままだというのに——自らの不運さに、ワルターは内心舌打ちをした。


「は? あ、えーっと……。そうだ、面会の約束は? ないなら、出直すんだな。うちの支部長は忙しいんだよ」


 ワルターは、素っ気ない風を装って、男の要求を突っぱねる。

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