10-5 独りにはしない
「お前の考えてることがわからない」
ふと、ジェラールの口をついて、本音がこぼれ落ちた。
「わからないって、何が?」
「『空の破片』のことを俺に納得させるためだけにこうしてるわけじゃないだろ。支部に帰って来もしないで、こんなところで何してる? 俺が外に出たことを、どうして叱らない? 俺のせいじゃないなら、どうして……」
我慢できないとばかり、続けざまに投げかけられた問いに、カキドがくすくすと笑う。
「ここまで来るの、ずいぶん勇気が要ったでしょ? そんなに心配してくれたんだねぇ」
「茶化すのはやめろ。俺は本気で、お前に何かあったらと思って――」
そう言いかけたところで、ジェラールは気づいた。今さらこんなことを言うのも、虫のいい話だ。
カキドはこれまで、長い時間を外界で過ごしてきた。たった一人で、誰に愚痴をこぼすことも、弱音を吐くこともなく。
これまでのジェラールは、カキドなら大丈夫だと、勝手に思いこんでいた。
実際、カキドがへまをしたことはない。しかし、彼女が不安に思ったことは、危険な目にあったことは、ただの一度もなかったのだろうか?
「今日、一人で支部を出て、はじめて……一人で外界に出る心細さを知って、お前のことをそれほど知らないことに気づいた。だから、教えてほしい。支部の外で、お前がどんなふうに過ごして、何を思ってきたのか」
これを聞いて、カキドの表情が複雑なものに変わる。
彼女は、脱力したように、背後の壁と仕切り壁が作る角に頭を預けた。悲しみと恐れが入り混じったような表情も、暗がりに埋もれてしまう。
少しの沈黙の後、カキドは、さりげなくジェラールに問い返す。
「ねえ。今言ったこと、本気?」
「冗談でこんなこと言うかよ。俺たち、姉弟だろ。お前を独りにはしない。ちゃんと話し合ってから、一緒に帰ろうぜ。俺だけじゃなく、ライナルトも、支部の皆も、お前の味方だよ。一人で抱え込まなくてもいい」
「……そう」
確かめるようにあいづちを打ったカキドの声は、かすかに震えていた。
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