10-4 ささやかな失望
魔術的な力を持つ物体なら、魔術師が近づけば、精神を通じて訴えかけてくるものだ。『空の破片』からも、そうした〈呼びかけ〉の気配は確かに感じられる。
だが、あまりに弱い。呼びかけに伴うはずの、引きつけられる感覚がない。『空の破片』自身が、術者とつながる必要性を感じていないかのように。
「あなたも薄々気づいてるだろうけど……結論から言うと、あれ、タンクにするには厳しいね。僕程度の魔術師が手を出せるシロモノじゃないみたい。いじろうとしたら、はじかれちゃった」
「〈僕程度〉だって? まさか、謙遜じゃないだろうな」
「あは! 当たり前じゃない。僕でダメなんだから、誰がやってもダメだって言ってるんだよ」
カキドは、からりと笑って言う。
軽い口調ではあったが、その言いぶりには、ジェラールが〈俺ならどうだ〉と言い出すのを押しとどめるだけの圧力があった。
魔術師が魔術的な力を持つ物体に干渉しようとするとき、物体の方もまた、魔術師の精神に〈接触〉しようとする。
それら物体には、協力的なものもあれば、そうでないものもある。
まれではあるが、強い力を持つ物体が攻撃的な振る舞いをしたことで、干渉した魔術師の精神が侵された事例もある。
『空の破片』からは、魔術的資源としての、秘めた力が感じられる。同時に、術者に協力的でないことも伝わってくる。
力で押し切って支配しようにも、カキドほどの魔術師でも手を出せなかった――だけでなく、ジェラールを近づけたがらない――相手だ。タンクとして利用するのは難しいだろう。
これで、新しいタンクの候補が一つ消えた。ジェラールのささやかな失望は、しかし、カキドの顔をうかがった途端かき消える。
鼻筋で光と影に分かたれたカキドの顔には、どこか残念そうな表情が浮かんでいた。先ほどのやり取りから考えれば、ごく自然な表情だ。
その不自然なまでの自然さに、ジェラールがカキドに再会したときから感じていた違和感が、いよいよ確信を帯びてくる。
カキドは、早いうちにこの結論にたどり着いていたのだろう。それを伝えるだけなら、ここでジェラールを待っている必要はなかったはずなのだ。
ただ、いつも通り
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