9-9 誘い
ジェラールの疑念に気づいたのだろう、カキドが寂しげに眉尻を下げた。
「言いたいことはわかるよ。ジェロアの考えることなんだから。そこでさ、ちょっと話そうよ。せっかくここまで来てくれたんだし」
〈そこ〉――『空の破片』によって半壊した二階建ての廃屋を視線で示しながら、カキドは言う。
その言葉で、ジェラールはさらに釈然としない心持ちにさせられた。
カキドの態度はいつも通りで、精神を通して動揺が伝わってくることもない。
それなのに……いいや、だからこそだろうか。言葉にならない違和感が、ジェラールに警告を発していた。
このまま、カキドの誘いに応じていいものか? ジェラールは平静を装いつつ、喉まで出かけていた問いを、別のものにすり替える。
「帰ってこなかったのは、俺のせいか?」
「うん? どうしてそうなる……ああ、戻らなかったらあなたのせい! みたいなことを言ったんだっけ。あんなの、ただの冗談に決まってるじゃない。ライナルトに似て生真面目なんだか、じゃなければ――」
カキドはそこまで言うと、ひとたび考えこむように宙を見やってからジェラールに視線を戻し、にんまりと笑う。
「そういえば、ジェロアは昔からずっとそうだね。何でも自分が中心に動いてると思ってる。そういういじらしいところ、僕は好きだけど」
ジェラールの頬が、かっと熱くなった。耳をかすめる風が冷たい――きっと、耳まで赤くなっているに違いない。
カキドの言うように考えたことはない……はずだった。
にもかかわらず、〈そんなことはない〉と言い返せなかったのは、ジェラール自身が意識していた以上に、カキドの言葉が図星を指していたからだろう。
何より、長らく傍についていたカキドに、そんなふうに思われていたという事実がいたたまれなかった。
返事に詰まったジェラールに、カキドは、柔らかく笑んでみせる。自分の力ではどうしようもなくなったジェラールに、手を貸してくれるときの微笑みだ。
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