9-10 選択肢
「意地悪がしたかったわけじゃないんだ。その先は、あなたの時間をもう少しくれるなら話すよ。でなければ、今すぐ支部に戻ってくれてもかまわないけど」
「話なら、支部に帰ってからすればいいだろ」
カキドは、〈それはできない〉と言うように、黙って首を横に振る。
それでは遅いということだろうか。「どうして」と問いかけても、カキドは頑なに答えない。
カキドの奇妙な振る舞いに、ジェラールはある気づきに至った。
彼女は今、
もしそうであれば、カキドが提示した選択肢――ここに残るか、彼女を残して支部に帰るか――も、言葉から読み取れる以上の意味を含んでいるように思えてくる。
ジェラールの葛藤の最中、カキドがふいに大あくびをした。
「まあ、考えててよ。急かすつもりもないからさ。中で待ってるから、気が向いたら来て」
カキドはそう言うと、眠たげに目を擦りながら、ジェラールに背を向ける。
先ほど示した廃屋の中へと消えていく見慣れたはずの背中を、ジェラールは立ちつくしたまま見送った。
カキドには、ジェラールを無理に引き留めるつもりはなかったらしい。かといって、カキドの真意を確かめないことには、帰れようはずもない。
彼女の考えを、あるいは、彼女をおかしな行動に駆り立てるものの正体を、知らなければならない。
加えて、今のカキドを一人にしておいてはいけない気もしていた。
ジェラールは迷いを振り払い、カキドの歩いていった道をなぞる。
二階建ての廃屋は、縦に二つに裂かれたように、向かって左側ばかりが不自然に破壊されていた。
右側にある玄関は無事に残っているが、扉に内側から鍵をかけたところで意味がないだろうことは明らかだった。
それでも、扉が残っているのなら、その通りに扱ってしまうのが人の性というものだ。
扉をノックしたジェラールは、「開いてるよぉ」と気の抜けた返事が返ってくるのとほとんど同時に、扉を押し開ける。
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