9-8 予期せぬ再会
「こんなものが、空から……」
ジェラールは、『空の破片』上空に視線を巡らせる。
『空の破片』の上空だけ、浮遊ランタンの天井に穴が開いている。『空の破片』が落下してきた際にできたものだろう。
『空の破片』の白い光は、それ自らのものではなく、穴から差しこんでくる太陽の光だったらしい。
路上に転がる石くず――かつて家屋や道の舗装だった――を歩行杖でつつきながら、ジェラールは、日光の差しこむ領域に立ち入った。
『空の破片』の落下地点にほど近い位置にあった家屋は瓦礫となり、『空の破片』が着地した衝撃がいかに壮絶であったかを物語っている。
それでも、これだけの大きさのものが降ってきたのだ。影響がこれだけに収まっているのが、むしろ不自然なくらいだ。
不自然といえば、衝撃による破壊の広がり方にも不自然さがあった。
『空の破片』から十歩ほどの距離を境に、一線引いたように、破壊が抑えられているのだ。
『空の破片』は、予兆なく降ってくる。被害を抑える用意をしている時間があったとは思えず、境界部を見ても、目に見える壁の痕跡はない。
しかし、落下の衝撃に対抗する、何らかの力が加わったことは明らかだ。
すぐに動かすことができ、どこででも扱える、〈何らかの力〉。ジェラールは、はっとした。これでは、あたかも……。
「〈魔術で力を加えたみたいだ〉?」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り返ると、ジェラールが通ってきた道からは死角となる、建物の影――背の高い瓦礫にもたれて立つ人影がある。
「……カキド」
「まったく、どうして来ちゃうかなぁ。勝手に執務室を出ない約束だったでしょ?」
人影――カキドはそう言うと、困ったように小首をかしげてみせる。
対するジェラールは、カキドの無事を喜ぶ以上に、予期しなかった再会に戸惑っていた。
カキドが出かけていったのは、昨晩のことだ。
何ごともなかったなら支部に戻っているべきで、そうでなくとも、すでにこの場を離れているはずだろう。
それに、執務室を出るなと言いつけるほどジェラールの身を案じていた彼女が、外を出歩くジェラールを見て、平気な顔をしているのも妙だ。
普段の彼女から考えれば、取り乱してもおかしくないというのに。
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