9-5 表通り

 実のところ、ジェラールが支部の外に出るのは、初めてではない。


 キースが生きていた頃は、親一般民思想の強かった彼とともに、一般民のいる街中を歩き回ったものだ。

 ジェラールが支部長になってからも、首長会議などのために樹の都アルベリア本部に招集された際など、リャンに支部長代理を頼み、カキドを連れて支部を離れることがあった。


 けれども――思い返せば、過去、ジェラールが一人で外を出歩いたことは一度もない。



 ジェラールは、路地の端にはりつき、あまり身を乗り出さないように気をつけつつ、表通りを覗きこむ。



 石畳の平石や、三角屋根の瓦の黒に、石畳を成形する編み目、家々の壁の白――火の都フラメリアの街は、ほとんどモノトーンで構成されている。

 花の都フルーレリア水の都オーナと比べれば、それほど面白みのない街並みだ。


 かつては火山灰の降る地域だった名残か、生活の気配を感じさせるものは、すべて、頑丈な家々が鎧のように守っている。

 外を歩く者がいなければ、捨てられたばかりの廃墟と見違えるかもしれない。


 |そんな景色を、浮遊ランタンの天井が橙色に染め上げている。

 浮遊ランタンの淡い光は、家々の影の輪郭をあいまいにさせ、景色から現実味を失わせていた。



 目の前の通りには、まばらとはいえ、それなりに一般民の姿がある。もちろん、一人二人ではない。

 ジェラールは、つばを飲み込み、フードをできる限り深くまで下げてから、路地をすべり出た。



 『探索』魔術が地面に描く線は、路地を出た後、まっすぐ大通りに沿い、先へとのびている。

 通りの端に寄って立ち止まり、光の線を目で辿ったジェラールは、通りの末に、半透明な青い石らしきものが鎮座しているのを見た。



 下部は地面に埋もれてしまっているが、地表から突き出ている部分だけでも、手前にある二階建ての家屋を軽々としのぐ大きさだ。

 橙の風景の中、ただひとつ、白みを帯びた光を放っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る