9-4 手がかりを探して
物音と、人の気配。人通りのある場所に近づいているのだ。
顔を隠したところで何にもならないことを知りつつ、ジェラールは、ワルターから借りたマントのフードを深くかぶらずにはいられなかった。
ジェラールが感じた通り、狭い道をひとつ曲がったところで、表通りへの合流点が待ち構えていた。
ジェラールのためらいをあざ笑うように、ジェラールの足元を這う光の線は、路地から表通りに出るようジェラールに告げている。
ジェラールは今、『探索』魔術を使い、廃倉庫から一番近い場所にある『空の破片』を探していた。
『探索』魔術は、あまり融通がきかないため、人捜しには向いていない。
となれば、無理にカキド自身を探そうとするよりも、彼女が最後に向かったと思われる、廃倉庫から最も近い『空の破片』に手がかりを求めるべきだろう。
ジェラールの考えを受けた『探索』の魔術は、魔法陣から光の線を伸ばし、『空の破片』の場所を指し示していた。
本来、『空の破片』のような大きなものであれば、建物の屋根越しに見えてもおかしくはない。
けれども、
幸か不幸か、魔術的資源に恵まれないこの都において、魔術的な力を持つ『空の破片』を探すのは簡単なことだ。
おかげで、いくつも条件を付加することなく、『探索』の魔術は対象を特定し、ジェラールを導きはじめたのだった。
ジェラールは、はじめから人通りのある場所に出ることを覚悟し、『探索』の魔術の上に『遮蔽』の魔術も重ねていた。
おかげで、『探索』魔術による光の線は、ジェラール以外の目には見えないようになっている。
こうして、いくつかの魔術を同時に行使できるのは、上位魔術師なればこそだ。
こと、ジェラールにとっては、範囲が狭く、対象が確定している『探索』魔術と、道を示す線を隠すだけの『遮蔽』魔術を同時に扱うことなど造作もない。
とはいえ、一般民の中に飛びこむことへの心理的抵抗ばかりは、優れた上位魔術師であるジェラールにも消せなかった。
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