8-8 線
違和感の正体を確かめようと、ジェラールは、試しにワルターに線を一本、引かせてみた。ジェラールが先に書いた手本をまねて、縦に直線を引くだけの、そう難しくない作業だった。
しかし、ワルターが手本通りにと書いた線は、直線とも呼べないほど歪んでいた。
間違いない――ワルターは、魔法陣を描くには致命的な〈目〉を持っている。
だが、期待とともにジェラールの反応を待っている彼に、どうしてそんなことが言えようものか。
ジェラールが言葉を詰まらせると、一瞬、ワルターの顔に寂しげなものがよぎる。
ほんの短い間ではあったが、その時の兄弟分の心の動きは、確かにジェラールにも伝わっていた。
「無理だって、わかってるんです。わかってても、憧れが捨てられないっていうか。長兄様みたいな、すごい魔術師になれたらいいな、なんて、こそこそ練習してるだけで……。今は杖も取り上げられてますけど」
ワルターはすぐに笑みを取り繕ったが、彼の言葉に、いつもの彼らしい勢いはない。
何か言ってやらなければ――ジェラールがあてもなく口を開こうとしたとき、忘れてくれるなとばかりに、腹の虫が大声で鳴いた。
ジェラールとワルターは、しばし呆け、顔を見合わせた。やがて、どちらともなく笑い出す。
「よければ、これ、食べてください」
ワルターは、腰に下げた物入れから焼きしめたパンを取り出し、ジェラールに差し出した。ワルターなら何か食べものを持っているだろうというライナルトの予想は、正しかったようだ。
ジェラールは、くすねたものであることを考慮して、控えめに礼を言ってから、受け取ったパンにかぶりつく。
食事時であればスープとともに食べるはずの硬いパンだが、硬いというのも、悪いことばかりではない。噛みごたえがあるおかげで、空腹をよくごまかしてくれる。
ジェラールが飲み物もなしにかちかちのパンを咀嚼しているうち、ワルターが気をきかせて、ドライフルーツを茶でふやかしたものを出してきた。おかげで、硬いばかりのパンがごちそうに変わる。
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