5-2 愚かな蛙

 少年の剣幕に、眠りかけていたリャンが、何ごとかと目をしばたたいた。さて何をしていたかと考え込む様子の彼に、子供たちが助け舟を出す。


「ねえ、どんなお話だったの?」


「ああ。そうだった。愚かな蛙の歌を歌ったのだったね」


 それまでのやり取りをようやく思い出したらしいリャンは、期待に目を輝かせる子供たちに向け、澄ました顔で答える。


「海というのは、大昔にあったと言われる、塩水でできた巨大な湖のことだ。蛙は、この〈海〉から自分たちのすみかに塩水が襲いくるのを知っていながら、共に暮らしていた魚らにそのことを教えてやらなかった。真水でしか生きていけない魚らは、塩水にやられて、皆死んでしまった……」


 リャンの言葉に、子供たちは固まってしまった。

 怒り、あるいは怯える子らに、リャンはくすくすと笑う。


「意地悪な蛙!」


「蛙ってば、ひどい! 魚たち、何にも悪いことしてないんだよね?」


「さあ、どうだかねえ」


 リャンがそう応じると、子供たちの想像はさらに膨らんだらしい。彼らは口々に、魚がどうだ、蛙がどうだと言っては、話の筋を見極めようとした。

 リャンはあえて口を出すことなく、彼らが自分から考えることを学んでいく様子を見守っている。


 そんな中、椅子の肘かけにあごをのせていた少女が、リャンにこう尋ねた。


「ねえねえ、意地悪な蛙は、それからどうなるの? 悪いことをしたんだから、罰を受けるんでしょ?」


 少女の問いに、他の子供たちも興味をそそられたらしく、黙りこむ。リャンは意味深げに微笑んだ。


「その蛙は――」


 言いかけたリャンは、ふと、口を噤む。彼は顔を上げ、部屋の入り口――ジェラールたちの方を見やった。


 急に黙りこんでしまったリャンを訝しむように、彼の注意が向く先に振り向いた子供たちが、ぱっと笑顔になる。

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