5-3 弟妹
「長兄様だ!」
ジェラールに気づいた一人が声を上げると、それを合図にして、子供たちが次々にジェラールの周りに集まってくる。
「もうお体は平気なんですか?」
「また〈じゅぎょう〉してください!」
「長兄様、一緒に遊びたいです!」
子供たちは好き勝手にジェラールに話しかけながら、ジェラールの手や衣服を、熱心に引っ張った。
小さな手で出せる力などささやかなものだというのに、子供たちに裾を引かれると、不思議とあらがえないものだ。
ジェラールは、子供たちへの愛おしさがこみ上げてくるのを感じながら、引っ張られるがまま、保育室に足を踏み入れる。
「はは、見つかっちまったなあ。こら、そんなに引っ張るなよ。服に穴が開いたら、俺が怒られちまうんだから……」
部屋に数歩踏み出したジェラールは、カキドがドア枠に張り付いたまま固まっているのを見て、苦笑いをした。
リャンのいる部屋には、そこが彼の私室であるかどうかにかかわらず、意地でも入らないつもりらしい。
ジェラールは、カキドの意思を尊重して、彼女を待たせておくことにした。
「ジョナ、エリク、少し背が伸びたな。ミカ、リリーに教わってた縫い物は仕上がったか? そうか、あとで見せてくれよ。トヴィ、この前の約束、覚えてるか――」
ジェラールは、子供ら一人一人の名前を呼び、声をかけてやりながら、ゆっくりとリャンの方に歩み寄る。
養護部長リャン――揺り椅子に腰かけた彼は、
低いところで結われ、肩から胸に垂れた長い黒髪に、深い緑の瞳。
造作の整った顔立ちは、若い頃はそれなりの美丈夫だったことを覗わせるものの、今では、横顔からにじみ出る寂しさが美しさの先に立つ。
不自由な足元にまとわりつく子供たちに苦戦しつつ、ようやくリャンの前にたどり着いたジェラールに、リャンは目を細める。その瞳は、焦点が合っていない。
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