5-1 第二保育室
ジェラールとカキドは、少しだけ開いた扉の隙間から、部屋の中を覗き込んだ。
多種の布をつぎはぎにしたカラフルな絨毯に、昼寝の時間を終えて畳まれた敷布とシーツ。
壁に沿って並ぶ本棚には、絵本と子どもたちの絵が、ごちゃ混ぜに飾られている。
見習いとして認められる以前のマケイアの子らは、一日のほとんどをこういった保育部屋で過ごす。
戦闘に向かないと判断された――多くは女性の――魔術師らとともに、歌ったり、絵本を読んだり、示唆に富んだ昔話を聞いたり、読み書きを学んだりして、見習い魔術師になるための基礎を固めるのだ。
今日もまた、自由遊びの時間を終えた子らは、保父である魔術師のもとに集い、その童歌に耳を傾けていた。
子供たちの輪の中で歌う人物が、探していたその人であることを見て取ったジェラールは、思わず破顔する。
「蛙いっぴき、瓶の中
誰も彼もが海を知らぬと
言っては腕組み、斜に構え
蛙いっぴき、潮飲みの
噂聞きしも口には出さず
はてどうするかと、瓶出やる
蛙いっぴき、瓶のへり
塩にやられて浮く腹々を
見ては指差し、大笑い
ぐうぐう、くるくる
ぐうぐう、くるくる
大笑い……」
男は揺り椅子を漕ぎ、膝の上に座らせた少年の背を、拍を刻むように優しく叩きながら歌う。
少ししわがれた、それでいて暖かな声色で紡がれる残虐な詞に、子供たちは首をひねった。
男の膝に座っていた少年が、男に向けて問いかける。
「リャン様。それって、どんなお話? 海ってなあに?」
男――リャンの答えはなかった。揺り椅子を漕ぐ足も、少年の背を叩く手も、いつの間にか止まってしまっている。
彼の方を見れば、揺り椅子の代わりに、うつらうつらと舟を漕いでいることが分かった。
無視をされたと感じたのか、少年はむっとして、リャンの胸の辺りをぽかぽかと叩く。
「起きて、リャン様! リャン様ってば! またいつもの眠り病だよ!」
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