4-2 おつとめ
「宝玉に、ヒビが……?」
ジェラールは、おもむろに水晶玉――『宝玉』に歩み寄った。
部屋にいた十人前後の魔術師たちは、数日ぶりに見る支部長の姿に驚きつつも、そっとジェラールに道を譲る。
水晶玉に触れたジェラールは、奇妙な違和感を覚えた。
普段であれば、宝玉に触れれば、精神にはたらきかけてくる引力のようなものを感じるはずだった。
しかしこのとき、ジェラールが触れた宝玉は、ただの水晶玉でしかなかった。
ジェラールは、戸惑い混じりに、背後で控えていたライナルトの方を振り返る。
「何があったんだ?」
「いや、『おつとめ』はいつも通り、滞りなく進んでいた。本当に、誰も余計なことはしていない。原因がわからないから困っていると言うべきか……」
ライナルトは、言葉通りの表情でかぶりを振った。
支部内の、魔術で持続的に動く設備――照明や、地下水道からくみ上げた水を清めるための魔動浄水機などは、執務室に使われている使い捨ての照明用鉱石とは異なり、単独では作動しない。
魔術には、術の作用を定めた術式と、その術式の内容を具現化するためのエネルギーが必要だ。
単独では作動しない魔術には、後者が欠けている。魔術師たちは、これを〈魔術的に完結していない〉と表現した。
ここで言うエネルギーとは、妖精のことを指す。
それも、『魔力』と呼ばれる、〈術者の支配下にある妖精〉だ。魔術のもとと言ってもいい。
『おつとめ』は、支部を支える『魔力』を集めるために行われる儀式だ。
魔術師が宝玉に触れ、決まったルーンを唱える。すると、術者が生成した魔力が、宝玉を通して魔力を貯蓄するタンクへと送られる。
そうして集められた魔力が、タンクから支部の至る所へ送られ、魔術師たちの生活を支えているのだった。
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