4-1 宝玉

 食堂を出たジェラールとカキドは、ライナルトに促されるまま足早に廊下を流し、ある部屋に向かっていた。


 すれ違う支部員たちが、ジェラールに気づいて黙礼をする。

 ジェラールは、返事代わりに片手を上げつつ、ライナルトの報告内容をオウム返しに問いかけた。


「宝玉の調子がおかしいって?」


「ああ。数日前から予兆はあったんだが、一時的なものだろうと放っておいたら……。とにかく、まずは確認してほしい」


 ライナルトがこのような言い方をするのは、ジェラールに先入観を与えず、純粋な意見を引き出したいと思っているときだった。


 ジェラールは頷いて答えると、隣を歩くカキドの顔色をうかがう。

 ジェラールの視線に気づいたカキドは、首を横に振ってみせる。ライナルトの言う一件については、彼女も知らされていないらしい。



 カキドのもとにやってくる報告の多くは、指導員らから、ライナルトを通じて上がってきたものだ。

 カキドが知らないということは、それだけ新しい情報であることを意味する。要するに、つい先ほど起きたばかりの問題なのだ。



 すっかり気配を消したルカを含め、四人が目指す先は、食堂にほど近い――物理的に近いわけではなく、空間同士が近くに結ばれているだけだ――、八角形の部屋だった。



 部屋の床に描かれた、壁の際に迫るほど大きな魔法陣。

 魔法陣の八芒星の角それぞれから、計八本の線が内側に向けて伸び……その終着点に、腰のあたりまである円柱形の台座が据えられている。



 台座の上には、透明な水晶玉が、下部を台座に少し沈めるようにして鎮座していた。


 水晶玉は、大人の男が、両手の親指と人差し指とで作る円ほどの大きさをしている。

 玉の中では、色とりどりの光が現れては消え、渦を巻いていた。人の――こと、魔術師の心を強く惹きつける、独特のかがやきだ。


 けれども今、何よりも見る者の目を引くのは、つややかな表面に走る、いくつもの亀裂だった。

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