3-14 見栄っ張り

「やはり、ジェロアの前だと態度が違うな。普段はもっと聞き分けが悪いんだが」


 粥をひとくち飲み下して、ライナルトがぼやく。


 ジェラールは、ワルターの方を軽く振り返った。すると、たまたまジェラールの方を見ていたらしいワルターと視線がかち合う。

 驚いたようにジェラールの方に背を向けたワルターの耳には、かすかに赤みがさしていた。



 若くして優れた魔術師であり、ベルリオーズ・ベロワイエの末裔、前支部長キースの弟子であるにもかかわらず、誰にでも気さくに接するジェラールは、支部の若者らの憧れだった。


 中でも、ワルターのような跳ねっ返りほど、圧倒的な存在であるジェラールに心酔するものだ。

 良くも悪くも鈍いところのあるジェラールは、そういった者たちを〈照れ屋〉だと思っているのだが。

 

「ワルターの奴、いつもこんな感じだろ?」


「お前は、自分がいない間の状況を知らないからな……」


 言葉に困ったライナルトが、こめかみのあたりを押さえた。彼の目元には、疲労の色が濃く表れている。


 指導員長は多忙だが、ライナルトが疲れを人に見せることはあまりない。

 ジェラールは、タフな兄弟が参っているの新鮮に思いながらも、やはりどこか申し訳ないような思いを抱いた。

 

「とにかく、お前がいてくれると、ワルターのような者たちも落ち着くんだ。俺が何を言っても聞かないんだが、お前がいるところでは、なぜだかあまり悪さをしないからな」


に見栄を張りたい時以外は、ね」


 カキドが、笑顔で付け加える。あえてワルターに聞こえる声量で言うあたり、底意地が悪い。


 カキドの茶々は、トイレ掃除を言いつけられてしょんぼりとしていたウィリアムにも飛び火する。


「ああ、ジェロアを見かけると落ち着きがなくなるおちびさんもいたか。君ならワルターの気持ちがわかるんじゃない? なんだかんだ言って、似たもの同士だものね」

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