3-13 非情な通告

 すっかり勢いをなくしてしまったワルターの姿に、ウィリアムが、勝ち誇ったような顔でライナルトを見上げた。


「ワルターめ、ざまあみろ! えへへ、ありがとうございます、次兄様! 次兄様ならきっとわかってくれると思って――」


「ウィリアム、お前はトイレ掃除だ。日常的に班の足並みを乱していることと、夜間の消灯違反だな。勉強熱心なのはいいが、規則は規則だ」


「ええっ、そんなあ!」


 ライナルトの非情な通告に、一転、ウィリアムはがっくりと肩を落とした。



 二人のやり取りを聞いていたジェラールが、からからと笑う。


 厳しいトイレ掃除を思い、げんなりしていたウィリアムだったが、ジェラールが笑ってくれるのならそれも悪くないように思えてくるのだから、不思議なものだ。


 そうでなくても、ワルターが与えられた罰に比べれば、トイレ掃除だってはるかにマシなのだから――ウィリアムは、そう考えるように努めた。



 話が落ち着いたところで、ジェラールが、「もう大丈夫だ」と言うように、軽く手を上げてみせる。

 その合図で、食堂のあちこちで事態をうかがっていた者たちが、ほっとしたように食事を再開する。



 一仕事終えたライナルトは、ルカが食事を運んだ席――ジェラールの向かいに座った。

 彼に従うルカは、その右隣に腰かける。つまりは、ウィリアムの正面だ。



 ウィリアムは、ルカのことが少し苦手だった。


 ウィリアムは、ルカがまともにしゃべっているのを聞いたことがない。それだけでも彼を不気味に思うのには十分な理由になるが、何より、ルカには相手をじっと見つめる癖があった。


 気まずいことこの上ない。ウィリアムは早々にルカから視線を逃がす。



 言い訳を諦めたワルターはと言うと、ぶつぶつと愚痴を言いながらも、おとなしく自分の席に戻っていた。


 見習いが彼の前に運んできた食事にトレイに飴はなく、食事の量も規定通りだったが、支部幹部が三人も揃った場で文句を言う度量はないらしい。

 ときどきジェラールらの様子をうかがっているところからして、これ以上の無茶をする気はなさそうだ。

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