3-11 叱責

 ライナルトとルカの朝食は遅い。他の指導員らの準備ができた頃、彼らはようやく食堂を訪れる。

 幸運にも、ワルターが魔術杖を抜いたときが、偶然〈その時〉だった。


 ライナルトの存在に気がついたジェラールが、彼に目くばせをし――ジェラールの無言の要請を的確に読み取ったライナルトは、魔術を使って、ワルターの手から杖をたたき落としたのだった。



 ライナルトは、ワルターの杖を手のひらで転がす。見習いになったときに与えられただろう、素朴な木の短杖だ。


「軽率に杖を抜くのは良くないな。食堂での魔術の使用も、規則違反だ。わかっているだろうが」


 ウィリアムは、ライナルトの視線が自分のいるあたりを通る気配を感じて、首を縮めた。幸い、彼がいることにいち早く気づいたおかげで、魔術杖は抜いていない。


 ウィリアムを素通りした視線は、固まっているワルターのあたりで止まる。



 少しの間があって、ライナルトがワルターの精神に軽く呼びかけたのか、ワルターが正気を取りもどした。


 ワルターは、はっとした様子で周囲を見回し、ライナルトに気づくや、真っ青になる。自分の置かれている状況――支部の風紀維持を担う指導員長の目の前で、重大な規則違反を犯した――を悟った、絶望的な表情だった。


「ち、違うんです、次兄様! これは俺のせいじゃないんですよ! そうだ、そこのガキんちょが、俺のことを馬鹿にするから――」


「ワルター。この場に俺やジェラールがいなければ、どうなっていたかわかるか」


 苦しい言い訳を、ライナルトが遮る。

 すべてをウィリアムのせいにしようとしていたらしいワルターは、ライナルトの険しい顔つきにひるみ、口を噤んだ。


「感情が高ぶった状態で魔術を使うのは、非常に危険なことだ。あのまま術が制御を失っていれば、お前自身も大けがを負っていたかもしれない。無事で済んで、本当に幸運だった。今回のことを深く反省して、今後は改めるように」


 ライナルトの叱責には、厳しさだけでなく、ワルターのことを心から案じる思いが宿っていた。


 ワルターは、毒っ気を抜かれたように力なくうつむく。そして、消え入りそうな声で、「申し訳ありません」とつぶやいた。

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