第3話 もう一人の僕あるいは私

 は、人の言葉を話した。


『楽しそうだね。私。』


 は、僕に対して話しかけてくる。楽しそうに。僕はその声を知っているのか。聞いたことのある声。は僕のほうへゆっくりと近づきながら話しかけてくる。


『私の名は時化しけ。こうも早く会えるとは思わなかったよ。なぎ。』


 ……何故。なぜ名を名乗っていないのに、僕の名を知っている。


『私はあなたの分身でもあるの。それは、死んだ後に起こった不幸。』


 ……よくわからない。言っていることが理解できない。


「待ちなんし。妖怪の話に耳を貸すのは。」

 後方にいたはずのみなみが、いつの間にか僕の前に歩み出て、言う。

「妖怪の話を聞くのはやめなんし。」

 彼女はそう言うと、に向かって持っていたかんざしを投げつけた。

 暗器を扱う彼女の戦闘スタイルだ。かんざしはそれの足元に刺さる。と思ったが、かんざしは足元を通り抜けた。

 は構わず話し続ける。


『死ぬ前の記憶は、私が持っているから理解できないのは仕方ないの。』


 は続ける。


『仕方のないこと。でも、私の存在は忘れないで。』


 そして、ふわりと宙に浮くと、僕たちの頭上を越えて飛び出す。真っすぐ。

 「岩おとしの旦那。危ねえ。」

 それは真っすぐに岩おとしの方へ飛んでいく。そして対峙。その刹那、はやては岩おとしの前に出てに斬りかかる。が、剣は空を斬り、身体は明後日の方向へ吹き飛ばされる。


『凪をこの世界に呼んだのは、あなたね。半人前。』


 に対峙した岩おとしは、身構えることもなく。

「要らないものは黄泉の国に捨て置いてきたはずだけどねえ。」

 と、悪びれもせず言った。


『要らないもの、ね。まあいいよ。……あなたを殺さない。』


 は、再び高く宙に浮き、白い霧と共に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る