14-研究
彼らにとって俺は、人間ではなく「特殊生物」らしい。
特殊生物研究棟と看板の掲げられた施設内には、俺のほかにも様々な生き物が研究されていた。狼男、蛇女、妖精、小鬼など、モンスターだとされる人々は、俺と同じ、鉄格子のついた独房に押し込められている。ほとんどが畸形か狂人だ。足の生えたミミズ、翼のある馬などの見たこともない動物もいれば、奇妙な植物を栽培している場所もある。エスパーだという特殊能力の持ち主が収容所から送られてくることもあった。人間とも動物ともつかない絶叫やうめき声が、昼夜問わず鳴り響いていた。
特殊生物だから手厚く保護されているかといえば、そんなことはない。少なくとも俺は、死んでも生き返ることが確認されて以来、どうすれば死ぬか、どうやって生き返るか、どのくらい時間がかかるかなどを調べられていた。蘇生してはすぐに殺される。いや、キュッとすぐ殺されるならまだいい。苦痛の大きさと蘇生の因果関係を見るといって、身体中に100本のナイフを一本ずつ、ゆっくりと刺され続けたこともあった。博士の研究結果によると、生きたまま刺されて失血死した場合と、注射針で失血死したあと同じ数の傷をつけた場合、蘇生時間はほぼ同じだったという。
「おはよう子猫ちゃん! いや、キミは間違いなく人類の宝だよ。世界初の永久機関だ。素晴らしいよ、うふふふふ!」
尻に体温計を突っ込まれたまま真冬の屋外に全裸で拘束され、凍え死んでから生き返るまで観察される実験。生き返った途端、耳障りな笑い声が耳に飛び込んできた。凍死させられたことより、屈辱的な姿で屋外に晒されたことのほうが苦痛だった。
「摂氏30度をキープだよ! 死んでいても一定以上は温度が下がらない! タカヤ、これはすごいことだ。厳寒のソビエトを攻略するときにも、キミを袋に詰めて積んでいけば、燃料不要の暖房になるかもしれない!」
丸眼鏡の奥で、博士は目を輝かせる。メシ抜き水抜きで数日おきに衰弱死しながら、むさくるしい兵士どもに代わるがわる抱きしめられるなんて、そんな利用法はまっぴらご免こうむりたい。
「いや、シリンダーに入れて液体を温めたほうが効率的かな。ビニールでコーティングすれば、水質の劣化も防げるはずだし。それをポンプで流して。うふ、うふふふ!」
今度は窒息死前提かよ。よくもそんなおぞましいことを考えつくもんだ。それより早く服を着せて欲しい。さっきから震えが止まらない。もう一度無駄に凍死しちまいそうだ。
「生き返るといっても、キミは蘇生に時間がかかるから、死なない兵士としては使いにくいんだよね。せめて3日で復活できるようにしろって、言われちゃった。うふふふ!」
失血死で約60日、窒息だともう少し早く1ヶ月半くらい。一週間で蘇生したケースもあったそうだが、再現できないと博士は嘆いていた。俺もなるべく無駄死にはしたくないから、頭と身体を切り離されたときや全身を焼かれたときは、次に蘇生するまで10年近くかかったことを話した。そんなに待てないや、と言って、博士は俺の身体を麻酔なしで10グラムずつに切り分ける実験を中止してくれた。
「あとは、キミのクローンを量産できれば完璧なんだけどねぇ。やっぱり半分に切ったら5年かかるかなぁ。そんなに待てないなぁ」
半分にしたところで増えるわけがない、と思う。切り刻まれて箱詰めにされても、箱の中で蘇生するのは俺一人だ。
「とりあえずさ、今度、精液取らせてよ。うまく育てばものすごいことになるよ、きっと。うふふふふふふふ!」
冗談じゃない。苦しみしかない俺のような呪われた人間を、これ以上増やされてたまるか。
肩にやっと毛布がかけられたが、身体の震えはまったく治まらなかった。
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