中学・高校⑫ 願書 前編
1次試験であるセンター試験が終わり、自己採点を行った僕は焦っていた。
実は結果が芳しくなかったのだ。当時の九州大学医学部のセンター試験の合格ラインは9割前後と言われていたのだが、国語の現代文がボロボロであった自分は合計で8割5分程度であった。
やばい。
もちろんこれだけで決まる訳ではない。ほかの医学部と比較して九大は2次の得点の比率が高めであり、自分はもともと2次の方が点数を稼げる傾向にあった。
多少センターが悪くても概ね問題ないはず…はずであったが、正直話が変わってきた。予想以上に悪かったのだ。悪くても8割8分程度は取らなくてはいけなかった。センターの点数による足切りなどはないが、現役合格するには、この様子だと志望校の変更も視野に入れなくては。
悩んだ挙句、塾講師に相談したところ、「より2次偏重型の北大はどう?」と提案された。北海道大学…
北海道かー、悪くない。北海道大学なら九州大学と比べても偏差値的に同格といったところ、当時九医にはなかった面接・小論文など新たに取り組まなければいけないものはあるが、センターの結果からして贅沢は言ってられない。そしてなにより、北海道なら親の魔手からも逃れられる。一石二鳥である。早速北海道大学の願書を取り寄せることにした。
それからというもの、普段は家の郵便受けなどはほとんど開けない自分が毎日熱心にチェックしていた。しかし、一向に肝心の書類が届かない。
かれこれ一週間以上が過ぎていく。だんだん僕は余裕がなくなっていった。
さすがにそろそろ願書を提出しないと締め切りが危うくなってきたという頃、帰るや否やリビングに置いてある郵便物の束をあさっている僕を母親が見つける。
普段そんな事をしないものだから、不審に思ったようだ。
「なにしてるの?」と聞いてくる。
正直無視したかったが、仕方がない。北大の願書の事は親たちには言っていなかった。今までの経験から、反対されそうな気がプンプンしていた。黙って願書を出そうかとも考えていた。しかし、締め切りが近づいてきた今、そんな事は気にしていられない。
「僕宛に郵便物届いてない?」
「なんの?」
「北海道大学の書類なんだけど…」
そう言う僕に返ってきた言葉は、完全に予想の斜め上を行くものだった。
「ああ、そんなもの捨てたわよ」
…は?
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