中学・高校⑪ エスケープゾーン
「自由を履き違えている」僕は通う塾を選ぶ自由も与えられなかった。
どこどこの予備校の授業がいいと聞けば勝手に予約をし、それまでに通っていた塾は解約。やっと新しい所に慣れてきた所で、「成績のいい◯◯君はあそこの塾に通っている」という話を聞きつけると、今度はそっちに通わされる。
まるで、リカちゃん人形のお洋服のように取っ替え引っ替え。
最終的に受験まで通うことになった塾には自習室があり、通っている生徒はそこで勉強していた。放課後塾へ行き、夜の10時に塾が閉まるまで過ごす。受験勉強も佳境という頃には、もはや家はご飯と風呂と睡眠のためだけの場所になっていた。
ただ結果的には、それが助かった。
家での親たちの圧迫感・閉塞感にはもはや耐えられなかった僕にとって、塾の自習室がエスケープゾーンになっていたのだ。
正直勉強もはかどる。実際に受験も迫っていたため、真面目に勉強と向き合うようにもなっていた。
しかし、親の方はというと自分達の目の届かない所でちゃんと勉強しているのか気にかかるらしい。まあ、前科もある。ある日自習室で勉強して、ふと机から目を上げると、自習室の扉の窓から必死に中の様子をうかがう顔が二つあった。見慣れた顔。わざわざ出張監視にきた親たちであった。
知らない人からしたらただの不審者だ。
もういい加減にしてくれよ。もはや回りの皆にバレるのもいやなので、必死に顔を下げ知らないふりをしていた。
そういう行動の一つ一つがこちらのモチベーションを下げている事に気付かないし、気付こうともしない。溜息をつきながら勉強を再開した。
そんな自由履き違えリカちゃん勉強人形はいよいよ大学受験を迎えた。
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