小学生⑩ 偏差値

小学6年生となり、中学受験の勉強も厳しくなっていた頃、ある日風呂から上がるといつもK氏が座っているソファーの上に本が転がっていた。なんとなく気になって見てみると、こんな題名であった「子供の偏差値は親の年収が決める!」(小学校の頃の記憶なので、多少間違っているかもしれないが、確かこのような題名だった

。)


たしかに、「子供の偏差値と親の年収は比例する」というデータがあるらしい。親の年収が高いほど、親自身の学歴も高い傾向にあり、学習に臨むための環境が整いやすい傾向にある副次的な理由があるためである。しかし、「比例する」と「決める」には大きな違いがある。


因果関係と相関関係を勘違いしたトンデモ論理である。


しかし、小学生の僕にはそんなことはわからない。目の前の本の題名を見て、まるで「お前の成績は親が決めている。お前の努力なんて意味ない。」とでも言われたような衝撃で、愕然としたのを覚えている。


自分の偏差値は親の年収で決まるらしい。少なくとも目の前の本にはそう書いてある。


ではなぜ自分はこんなにもイヤな勉強を毎日させられているのだろう?なんでつらい思いをしてまで勉強ってしなくちゃいけなの?


勉強は自分からするものでなく、親にさせられるものであった。たたでさえ分かっていなかった勉強をする意味というものを、ますます見失っていった気がする。

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