小学生⑥ 誕生日プレゼント
これはみんなそうだと思うのだが。
小学生にとって誕生日のプレゼントはめちゃくちゃ重要である。普段はねだる事のできない高価なものを買ってもらえる大大大チャンスである。
小学校5年生の時の誕生日の翌日、同じクラスで自分と誕生日が一緒のS君とプレゼントに何をもらったか談義が始まった。
S君は自慢げに話す。「オレ、ビーストウォーズのコンボイのオモチャ買ってもらったんだー」と。「ビーストウォーズ」とは当時TVで放映していたトランスフォーマーのアニメ版であり、コンボイはその中のリーダーキャラである。
「いいなー」と思った。素直にそう思った。
最も僕はその「ビーストウォーズ」を見たことがなかった。だって放映している時間は塾に連れていかれてるんだもの。ただ、そのアニメには鮮やかに変形するロボット達が出ている事はクラスの友達の話で知っていた。男子で変形ロボットに憧れないやつなんていないだろう。
目の前でS君はそのおもちゃがいかに変形し、カッコイイよく、それが嬉しいかを語っている。うらやましい。
一通り語るとS君は聞いてきた。「ヒロ君(自分のあだ名)は何もらったん?」と。
あ…
言いたくない。なんとかごまかせないものか。
でも、嘘をついてもしょうがいないし、第一「ビーストウォーズのおもちゃ」なんて言って、「今度それで一緒に遊ぼうよ」なんてなったら大変である。
少し言い淀んだのち、観念して本当のことを言うことにした。
「よ、吉田松陰の伝記…」
その時のS君のリアクションは忘れられない。「なにそれ」一瞬ポカーンとしたのち、怪訝そうな顔でそう言う。まるで、「君は何を言っているんだい」とまで言いたい顔だった。S君よ、パンドラの箱を開けたのはそっちだぜ。
しかし、その時ばかりは僕はS君の気持ちが痛いほどよく分かったし、言う前からそうなるだろうと思っていた。なぜって、そのS君のリアクションは、まるで昨日の誕生日当日にプレゼントを開け、それが「吉田松陰の伝記」だと分かった時の僕自身のリアクションまんまだったからだ。
確かに吉田松陰は素晴らしい方だ。多くの幕末志士を輩出した松下村塾を開き、安政の大獄で刑死したのちも多大な影響を与えたすごい方だ。しかし、小学5年生にその素晴らしさを分かれってのはやり過ぎでない?
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