小学生④ 車

小学4年生ごろ、学校から家に帰ると見たこともない車が家の前の駐車場に入っていくのが見えた。国産の一般乗用車だ。よく見ると母親が乗っている。

どうやら新車を買ったらしい。その日の夜、母親は自分にこう言う。「あんたのために買ったんだからね」


え?僕のため?よく意味が分からなかった。


当然ながら僕は親に「車買ってー」とねだった訳ではない。だとしたら日産のサニーとかチョイスが渋すぎる。第一小4だし、乗れない。


それまで僕は塾にバス通いしていた。家から塾までバスと徒歩で計3、40分ほどであろうか。どうやら親たちはその時間さえも勿体ないと思ったらしい。時短のために車を購入したのだ。


それからは、学校が終わり校門を出て50mほど歩いた先の角で母親がその車で待機しており、そのまま塾へ連れていかれ、塾が終わり次第迎えが来て家に連れて帰る形になった。


友達と帰るということもなくなっていった。


小学3年生までは週に1回水曜日だけは放課後友達と遊んでもいい決まりになっていたはずが、その頃にはいつのまにかそれさえも許されなくなっていた。


すべてを親に管理されていた。

友達と遊びたい。車の迎えだっていらない。


しかし、そんな不満を漏らす度にかえってきたのが「あんたのためにやってんだからね」であった。


自分にとって、ありがた迷惑でしかなかった。

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