No.7-25
私は、エス・エル……その指導者たるメグミ・トーゴーに対し、こう提案をした。
「テロリズムには実態が必要ではないか」
相手はこう答える。
「話してみ給え」
「我々の行動は、絶対にその本体を理解させてはならない。しかし同時に、我々が行動をしているという事実を、知らしめる必要がある」
「だから、殺しがあるんだ」
「しかし、たんなる些末なテロ団体に、このように大々的な行動がとれようものでしょうか」
「核心を話し給えよ」
「つまり、エス・エル……おっと、これはあまり表で話して欲しくない名前でしたね。この組織のさらに大きな隠れ蓑が必要なのではないか。それも、実戦的な行動をとるグループを偽装した、派手なものが必要なのではないか、と考えたのです」
「提案の実態を話せ」
「つまり。私はあなた方のテロリズムの、その実行者の旗手であると喧伝しても良いと言いたいのです。私が、戦場を逃れた兵士として市井に潜み、そして実践している。その裏側にはあなたが居るが、表向きの全ての指導者は、私である」
「テロリズムを暗部から明るみに展開し、これを劇場としようというわけか」
「その主演は私です。あなたは脚本家となれば良い」
「しかし、そうなれば君はもはや後戻りできなくなる。どうあがいても、君は最後まで兵士として死ぬ必要が出てくる」
「それこそが、私の行い得るあなたへの証明です。そして、この作戦だけは私の意見の提示を認めて欲しい」
「どのようにせよ、と?」
「私が機材を受け取り、そのテロリズムの大壇上に立つ。しかし、そこに私が現れなければ、その作戦は今まで通り、秘密裏に行われる」
「都合の良い、話だな」
「今から身代を賭けるか否か、という話をしているのです。それに、これが最後になるのだということは、あなたであれば理解できるでしょう」
エス・エルの指導者。多国籍陸軍大将は、それを承認した。
そうして私は、彼女ジェーン・ドゥに話した次の日曜日。
かつての廃兵院近くにある花屋の前で、彼女を待った。
既に朝の時点で空には厚い雲の層があり、これは正午の頃には小さく降り出し、今の時間にはもう立派に雨となって、私の頭上に降り注いだ。
彼女は。
彼女は……。
私は、花屋『ボッカ・デラ・ベリタ』の店員に、声をかけられる。
「あなたが、フランさんですね」
そいつの言葉を聞いて、私はそうだ、と答える。
「時間です……あなたに、黄色い水仙の花束を渡せと、言われています」
そう言ってそいつは私に、その言葉通りの花束を渡してくる。
「ご武運を」
それこそが。
その言葉こそが、私に告げられた運命の審判であった。
私はそこから歩み出すその直前に、もう一度周りを見た。
彼女は居ない。居るのは私。兵士、フラン・モンタギュー。そして、兵士達の旗手。偽りのテロリスト、フラン・モンタギュー。
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