No.7-19

 トーゴーの下す指令は、隠密性を重視したやり方で通達がなされる。

公園のベンチ。街の喫茶店。またある時は自動車の中……作戦毎に使用される機材の大小によってやり取りの手段が変わる。リアルタイムに変動する作戦それ自体は電話機によってなされるが、これも最小限に留められ、無駄話は極力控えるようにと通達されている。

情報の取り扱いも独特で、幾人かの諜報を担当する要員が各地に存在していて、彼等の集めた情報をこうしたリアルな空間での情報交換を通じて収集し、トーゴーが自身の手元でまとめ、そして裏を取る。

私は、私自身の好奇心から(恐らくは、彼等の言う無駄話のうちに入ると思われる)情報収集に関する質問をしたことがある。すると、意外なことに相手は素直にこうしたやり方について説明をしてくれた。

曰く。

「情報は正確であればあるほど良く、また新しければ新しいほど良い。無論、軍の情報網を使えばそれが手っ取り早いということは分かる。しかし、電子通信の最大の問題点はそこにアクセスした履歴が必ず残るということにある。そういった意味では、こうした電話機による通信も同様で、実際のところこうした通話でさえ非常にリスキーだ」

「では何故、その内容を私に対して開示なされるのですか?」

「この情報が、どうでもいいものの範囲に入っているからだ。つまり、相手はその手段を理解しているが、過程を理解していない。そして現実として、情報のやり取りが行われるのは実際の物理的な過程の中にあり、こうした通信の中にはない。通信が終わり、この情報を漁られたその時点で既に事案は終焉を迎えている。これを繰り返す。すると、相手は常に三歩遅れて後をついてくる、ということになる」

「……じゃあ、なんだ。我々の行動はその全容ではないにせよ、彼等に理解されていて、そしてそれを後から追いかけてくる連中がいるということか」

「その通りだ」

「では。もし仮に私が、情報を漏洩しようとすれば、どうなる」

「自身の胸に聞けば良い」

「情報を取り扱う以上、漏洩危険性の高い情報を取り扱う人員も必要になるだろう。それについてはどう考える」

「単純な話だ。この場合、情報に対する考え方と同じか、それ以上に本人がこのエス・エルにどれだけの帰属意識を持っているかを判断基準として置く」

 私は意地の悪い質問をした。

「私はエス・エルにどれだけの忠誠心を持っているものと諸君らは判断しているんだ?」

「君は戦闘員であって諜報員ではない。それが答えになる」

 そこまで言って、電話は切れた。

私が、彼等の言うそうした諜報に関する一連の開示が真実であるということを知ったのは、彼等に指定された通りにある、自動車の中で物のやり取りをしろと命じられた時のことだった。

その時、その自動車には珍しく人が乗っていた。エス・エルにおける諜報員を名乗る彼女は、落ち着かない感じで私に必要な情報と機材を提供し、最後に一言。

「ありがとう。お達者で」

 と言った。

私がそこを去って、何時間か経過した後。私はその後の行動について指定がなされていなかったので、その近くにある喫茶店で珈琲を飲んでいた。

そこで、爆発があった。自動車の燃料が漏れていて、スターターの電気がそれに火をつけたと説明を受けた。

その車両は先程まで私が身を置いていたもので、中には黒焦げになった人間が一人いた。

私は確信した。先程の諜報員は死を覚悟していて、そしてそれは彼女の予想通りに推移したのだ、と。

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