No.5-35

「まず、我々の防衛するこの場所について再度説明をする」

 エダ軍曹はそう言うと、大きな地図を一枚取り出した。第二十七歩兵連隊の有する戦力と、想定される敵戦力が記述されている。

「敵戦車部隊のうち、主攻は我々の方面にはない。既に攻勢正面には戦車を含む敵装甲車両が戦車連隊の規模での侵攻を開始している。我々の方面に展開する戦車は敵戦闘団隷下の戦車二個小隊であると推測される」

 言って、エダ軍曹はある地点に大きくばつ印を書き入れる。

「敵はこのポイントPに戦車小隊を送り込んだ……シルヴィア・レイン上等兵。敵の投入してきた戦車の車両数は?」

「は! 繰返します。戦車六両であります」

「損耗しているか、或いは温存しているのかは定かではないが、我々の方面には戦車二個小隊分の戦車が進軍しつつある。そして我々の防衛地点は全体を俯瞰してみれば多国籍軍の側面となる。主攻方面における攻勢とは別に、この地点が食い破られれば先頭部隊が包囲されることとなる。その際の損害を我々は計算する必要はない。ただ、大損害となるだろう。戦争の終結が遅れるのは間違いあるまい」

 こほん、と軍曹は一つ咳をする。

「良いか悪いかはさておき、我々の防衛地点において敵軍は『まだ本気を出していない』のが分かる。この地点が突破出来れば良し、困難であれば諦める、ということだ。突破出来れば後方の予備軍や、或いは主攻方面の軍を引き抜くかもしれない。また、我々が死守防衛を行った上で、我々の戦力が弱体であると敵に判断されれば、同様に敵は本格的に攻撃を仕掛けてくるだろう」

 つまり。軍曹は続ける。

「我々第二十七歩兵連隊に課せられたミッションとは、我々の防衛戦力を実態以上に大きく見せるということである。ただ漠然と防衛をするだけであれば、敵が攻勢を強めてくるであろうし、撤退すれば主攻方面部隊が包囲、遮断されることとなる。これらの条件を鑑みるに、我々は短時間で、敵軍の戦力を著しく減退させることによって、敵に我々の防衛地点に対する攻勢を諦めさせる、というのが最善であるように思われる。何故ならば」

 エダ軍曹は言い切った。

「まだ私は、死ぬ気がないからだ。そしてそれは諸君らも同様であろう」

 キャンプに集められた兵士は無言で頷いた。

「そこで私は一つプランを立ち上げた。説明後に質問を認める。聞いて欲しい」

 ここからが問題なのであった。我々に課せられたミッションとはつまり、死守か攻撃なのである。

無論、過去の戦闘事例から引用すれば、戦車をごくごく小規模の部隊で撃退した事例は存在する。しかしそれは、トイ・ソルジャーには不可能であろうと私には思われた。

「火砲戦力は以下のように配置される」

 言って、軍曹は地図に我々の持つ砲戦力の配置を記述した。その配置は、敵戦力の先頭に火力が集中するものである。

「我々はまず敵の先頭車両に向かって集中攻撃を行う。そうして敵車両の動きを一時的に停止させる」

 ここまでは良い。問題はその後だ。

対戦車ロケットによる撃破か?

火砲を機動させることによる戦術的撤退と敵への損害の強要か?

或いは、私が『取り得ない』と判断した手段を取るのか?

「敵戦力の拘束後、無反動砲を搭載した軽車両によって、敵戦車を撃破する。これには優秀な運転手と、砲手が必要となる。これが、私の導き出した結論だ……質問を認めよう」

 私はその場で即座に手を挙げた。

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