No.5-34

 先程の会話が終わってそう経たないうちに、第二十七歩兵連隊が構築・配置した司令部のあるキャンプにそれぞれの小隊長と……そして私が呼びつけられた。

衛生小隊のリーダーでもあるイレーヌに私は問う。

「私、二等兵ですよね。何故呼びつけられるんでしょう」

「知りませんよそんなの。あんたが本当に士官だったらいいなと思っているなんて想定、私はあんまりしたくないです」

 イレーヌは吐き捨てるようにそう言った。

キャンプ内にはエダ軍曹は無論のこと、例の眼帯をつけた下士官を含む複数人の小隊長が居る。私とイレーヌが最後だ。私とイレーヌ以外の兵士は皆何処かしらに傷を負っていて、指が足りないのは無論、顔や耳など、見える部分に大きな傷跡が残っているものも居た。

「さて、まず偵察班からの報告を聞かせて欲しい……シルヴィア上等兵」

 軍曹が言うと、眼帯をつけた例の士官……シルヴィアが口を開く。

「は。ポイントP陥落後に行った偵察では敵戦車六両が侵出。随伴歩兵はまばらで、恐らく一個小隊程度ではないかと推測されます」

「アンバランスな編成だ。しかし、戦車六両か……火砲による撃破を望めないか。対戦車小隊、回答を」

 別の下士官が答える。

「……端的に申しまして、現在の対戦車小隊はたんに火砲火力を管理するだけの部隊です。二両程度であれば対処可能ですが、六両となると」

「現在の装備について報告したまえ」

「牽引式の榴弾砲が二門。無反動砲が一本。ロケットランチャーは三本……貧弱極まりない状態ですが、迫撃砲だけは充実しています」

 この報告を聞いて私は驚愕した。一歩兵連隊が有する火砲戦力としてそれはあまりにも弱体に過ぎるからであった。真っ当に補給がなされていれば、このような状態になることはまずないはずなのだ。

「迫撃砲で戦車が撃破出来るものか……成程、二両であれば確実という君の意見がよく理解できた」

 エダ軍曹の言葉を聞いて、対戦車小隊の下士官は青ざめた。

「軍曹。その口ぶりでは、まさか」

「死守命令だ。我々は殲滅されるか、或いは敵を撃破するかの二択を迫られている」

 そう聞いて、その場に居た兵士たちは皆一様に押し黙った……その中で、イレーヌが手を挙げ、発言の許可を求めた。

「発言を許可しよう」

 イレーヌの口から出たのは、軍曹への非難であった。

「エダ軍曹。私が記憶する限りでは、我々に死守命令が下ったのはこれで四度目です。いくら我々が『余り物連隊』だからと言っても、限度があるのではないですか。医薬品は無限ではありませんし、我々トイ・ソルジャーもちぎれた指が生えてくるわけではないのです」

 余り物連隊。その文言が私の脳内に繰り返し響いた。そんな名前でこの部隊は呼称されているのか?

「……イレーヌ。君の言いたいことは分かる。だがね、現に我々に増援は来ないし、航空支援もないし、即座に物資が補充されるわけでもない。どんなに苦しくても、現実に対処しなければ死ぬのは我々なんだ」

「しかし、軍曹!」

「問答を繰り返しても事実は変わらない……しかし、策がないわけではない」

「……ならば、お聞かせ下さい」

「それはな……」

 エダ軍曹の出したその策を聞いて、私は驚愕した。

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