No.5-5

 現在、国連議決に則って実行がなされた戦争は大きく分けて二つ存在する。

片方は砂漠の後進国相手のもので、こちらの戦線は概ね順調である。

もう一つは……こちらが主戦場と言っても良いだろう。様々な政治事情によって国連と対立した末に戦争を開始したとある先進国家との戦争。こちらは多国籍軍が物質的優位を築き上げることに成功したが、その損害はとてつもなく大きい。原因として上げられるのが、多国籍軍特有の横の連携の難しさ、また人工的に作られた兵士同士の戦いであることがあげられている。

後者の戦争に従事する軍は大きく分けて三つある。

第一戦闘団。国連直属の軍であり、国連議決に則り戦闘を行うために編成されている。多数の陸軍兵士と少数の有人航空機。多数の無人航空機によって編成されており、その構成要員の殆どが人工的に作られた兵士である。

第二戦闘団。国連に参加する複数国家によって編成される海・空軍軍団。名目上は原子力空母や戦略原潜、ミサイルフリゲート、多数のイージス艦。また多数の戦闘機・爆撃機・偵察機から編成されているこの軍団であるが、先進諸国の政治力学、交渉がダイレクトにその編成を左右するために、即応性という意味では第一戦闘団に劣る。今時戦争における横の連携の、最大の問題点はこの第二戦闘団に集約されると言っても良い。

第三戦闘団。後方防衛、掃海、民間・軍事を問わない後方輸送船の防衛。陸上においては後方地帯での治安維持を目的とした補助的な軍団であり、一部には民間軍事会社が担当をする場面も存在する。

多国籍軍直属の士官であり、現在多国籍陸軍元帥の命をもって指揮にあたるメグミ・トーゴーは、数的優位を構築し、海上・航空・陸上三つを統合するために結び付けられていた第一戦闘団と第二戦闘団を分離し、某国との戦闘における物質的優位を事実上捨て去る形で再編成した。

最前線における戦闘は停滞している。

大きな犠牲を払った末に沿岸部への上陸を果たしたグレイ・ビーチ上陸作戦以後、多国籍軍は侵攻こそしていたものの、敵国の兵力を根本的に壊滅せしめることが出来ず、天候不良に合わせて行われた某国の反撃によって空挺部隊を損失する打撃を被っている。

そうした戦況を前に、多国籍陸軍少将メグミ・トーゴーは軍団の再編成と同時に軍団の状況、配置の把握に奔走した。

今や最高司令部中央作戦室は彼女と戦争にのみ奉仕する空間として作り変えられ、デスクには合計十二個のモニタが彼女を取り囲む形で配置されている。

彼女は言った。

「近代的な軍隊とは訓令によって大まかな作戦目標のみを設定し、刻一刻と変化する最前線の状況に合わせる形で前線士官が柔軟に対応し、またさらに最前線指揮官からの情報のボトムアップによってその作戦目標をさえ変動させるという形で改革がなされてきたわけであるが、現在の第一戦闘団とはそのような『過去の人類的な』軍集団とは一線を画する。言ってしまえば第一戦闘団とはアクターのみによって編成された軍集団であり、彼女達は通常の人類よりも明らかに頑丈であるが、その戦闘意欲は旺盛とは言えない。というのも、彼女達は仮に勝っても負けても、何ら一つの利益を受け取ることが出来ないのだから、戦闘意欲が喚起されることはまず有り得ない。故に、最前線からの積極的なボトムアップはあまり期待出来ない。彼女達を指揮する上で必要なのは最前線から後方に至るまでを完璧に把握し、一挙手一投足。全ての行動を指定し、最前線における不測の事態をさえ計算に入れて命令する能力である」

 彼女はたった一日で、第一戦闘団に所属する全ての兵士の名前と配置、その戦闘履歴、能力を頭に叩き込んだ。そうした努力の果てに、彼女は敵国を破滅に導くための作戦行動を開始したのである。

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