No.5-6
そうした命令系統の改編、再度作戦行動が可能になる形に至るまでにおおよそ一ヶ月の時間を消費することとなった。
それでも、彼女の言う『作戦』の開始日は初期に提示されたものからほぼ動かず、『トーゴー第一作戦』なるものは開始された。
かつては男達が議論をする空間であった最高司令部中央作戦室は、彼女……メグミ・トーゴーが指揮を行うための空間に作り変えられ、複数存在していた作戦司令室は廃され、彼女が座す一箇所のみになった。
「一ヶ月のうち半分は作業をしていた。後は眠っていただけだ」
メグミ・トーゴーは自身の秘書たるアリア・クーベルタンに対して、そう告白している。
最高司令部中央作戦室のその一番奥。多数のモニタに囲まれ、今や第一軍の全てがここに表示されるようになった彼女の座において、作戦を開始するその直前になって、彼女とその秘書は会話する。
「物事や動作の一つ一つに感情を込めすぎなんだ。命令系統を変えると言えば大げさに驚いた後に抵抗の意志を示し、改編が終わりつつあるこの瞬間まで抵抗をする……なあ、あの無能な男共が何故、私にここまで強く抵抗の意を示すんだと思う?」
アリアは答えた。
「それが自らに課せられた仕事であると、彼等はお考えなのでしょう」
「半分は正解だ。だがもう半分は間違っている」
「と、言いますのは?」
「そもそもを言えば、私がここに派遣されてきた理由は三つある。一つは私という個体の性能をここに測るため。二つは勝利のため。肝心なのは三つ目のことなんだよ……私はいわば、首刈り人の役をここに任されたというのが、三つ目だ」
そう言って、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「元帥閣下は……いや、そのさらに上に居る天上人どもは『新しい戦争』を望んでいる。それはつまり、今までよりもずっと少ない出費と時間で、効果的な作戦を行うことが出来る、自らに忠実な、いわば魔法のような軍隊を心の底から渇望しているのだ。その根底には軍という官僚組織。軍がその意向をお伺い奉る国家という集団、共同体に対する不信感が存在している。国家、ましてや民主主義国家などという気まぐれな生き物の顔を見ながらようやくといった体で動かすことの出来る旧い軍隊、そうしたものに対する強い不信感を、彼等は持っている。政治的に経済的に歴史的に技術的に類を見ない新たな軍隊を、国際資本家どもは求めている。私はいわばそうした連中の先駆であり、操り人形である」
「閣下にしては珍しく、謙遜でいらっしゃる」
「そう思うか! はははは。これは傑作だ。私がたんなる操り人形で済むはずもなかろうに……」
その笑いが丁度収まった頃に、彼女は言った。
「お見せしようじゃないか。新しい戦争とやらを!」
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