No.5-4
そうして、メグミ・トーゴーの改革は開始された。
彼女は言った。
「私が指揮を行う上で障害となる様々な過程を省略する」
と、いつものあの自信に満ちた表情でもってその作業へ取り掛かった。彼女は多国籍陸軍のうち、国連直属の部隊のみで編成される第一軍の命令系統を大幅に書き換えた。現場から命令系統の最上位までが共有されるはずであった戦場の情勢情報を自身とその周りの人間のみが把握する形に変え、最前線の現場下級将校や下士官、兵士達に対して一方的な命令を行う方式に変更した。その代わりに無人偵察機の観察範囲を第一軍そのものも含めるようにした。またその過程において、人工兵士の割合、管轄を増やし、通常の人類を殆ど最低限とし、事実上排除した。
無論、彼女のこうした急進的な……或いは、近代的な軍の進化と逆行するような反動的な制度改革は即座に既存士官達からの反感感情の造成の基礎となったわけだが、彼女はそうした憎悪の声を完全に無視し、それどころか陸軍元帥の名を用いてそれらを封殺した。そこでは無論、彼女の秘書であり副官である女性兵士、アリア・クーベルタンの硬軟を織り交ぜた多数の交渉によって成立したという側面もある。メグミ・トーゴーはそれを当然と考え、アリア・クーベルタンもまたそれを当然のことであると考えていた。
そうして、メグミ・トーゴーが指揮をするただそれだけのための第一軍は誕生した。数々の改革が終了し、新たな作戦を立てるといった段になると、彼女はそれらの改革を締めくくるように、こう言ってのけた。
「今までの男どもがやってきたクソのような、非合理的な戦争は今日において、少なくとも我が第一軍にとっては過去のものとなった。故に、ウラヌスだとかネプチューンだとか、天体オタクか或いは恋愛詩を書く若者のようなくだらない作戦命名も今後はなしとする。あれこそ、男性的な非合理の象徴である」
それを聞いて、あの場に残った士官のうちの一人が質問をする。
「ならば、どう命名致しましょうか。命令を下す上で他の情報と混同がなされない命名が必要になることは、閣下であればご理解頂けるはずでしょう?」
多国籍陸軍少将、メグミ・トーゴーは宣言した。
「トーゴー第一作戦。それで良い。それだけで十分だ」
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