No.4-17

 ひゅうううう……。何かが遠くから飛来してくる。おたまじゃくしのような、糸のついた飛翔体。これが空で炸裂すると、昼間の太陽のように夜空に光り輝く。私達を照らし出す殺意に満ちたその光。

私達は即座に伏せる。敵からすれば丸見えかもしれないが、それでも前に進むよりは、背中を向けるよりはずっと、ずっとマシだ。

幾人かの兵士が敵機関銃手に狙われ、撃ち抜かれる。

やがて敵機関銃手もまたこちらの狙撃兵に頭を撃ち抜かれ、沈黙する。こうなったらもう昼間の戦闘とあまり代わり映えしない。最前線のシーソーゲーム、小競り合い……ここで勝っても負けても大局が決まることはない。故に空軍の支援はない。手持ちの火力の高い方が勝ち、劣る方が負ける。

「せめて歩兵戦闘車がいれば、あんな奴ら……!」

 ないものねだりだと分かっていても、そう言いたくなる。戦場にはないものばかりだ。人権なんてないし、マトモな食事もないし、憂いと備えなしに眠れる夜もない。銃弾も火薬もたまになくなる。あるのは死体、死体、死体に近しい何か。そして、死体、死体。血と肉だけが積み重なっていく……。

私は幾人かの同僚の身体を引きずりながら、味方が隠れる障害物に近寄る。

「連中にロケット打ち込んだら前進だ。イレーヌ、お前もついてこい」

「いえ、私は彼等を治療しなければなりません!」

 私が言うと、その兵士は笑う。

「へっ! 『それ』を治療するって? 全く、衛生兵はまるで魔術師だなあ」

「馬鹿にしないで下さい」

「……いんや。よおく見ろよ。お前が引きずってきた二人はもう兵士じゃない。『元』兵士だ」

 言われて私は、引きずってきた二人を見た。片方の兵士は上半身がもげて、下半身だけになっている。内臓が弾けて血と糞尿と、沢山の液体が漏れ出ている。

もう一方は、存外綺麗だ。兵士らしからぬ白い服。

心拍数が跳ね上がる。

冷静でいられない。

怖い。怖い。怖い。

過剰に、死体のように青白いその肌。鼻から血が出ている。脈拍は、動いている。生きている。

そう。『元』兵士は、言った。あの声で。

「イレーヌ……」

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