No.4-10

 贄の如き様相でもって差し出された彼女の前に、一人の男が立つ。

この研究所の警備兵の一人であろうその男は、私が戦場で見た時のそれとあまり代わり映えしない。人間工学的に考慮されたと言われているなだらかな形状のそれは、小銃としての性能はもちろんのこと、人間を殴打するための鈍器としての機能も持ち合わせている。

『どこをやればいい』

 その男のしゃがれた声が、マイクを伝って我々の耳に届く。

私の隣に立つ実験助手たる男は何も言わず、睨むようにして私の方を見る。

半ば不随意に、私の意図を介さないような、そのような感じで、私は言葉を発した。

「胸骨、肋骨を狙って下さい」

 画面越しの男は言う。

「んなもん、分かんねえよ。もっと分かりやすく言ってくれ。俺は衛生兵じゃねえんだからよ」

 言われて、私は文言を変え、再度命ずる。

「心臓、鳩尾以外の、上半身、胴体部分」

 私がそう告げると男は無言で、手に持った自動小銃の銃床でもって、彼女を殴りつけた。何らかの骨が折れる音が響いたその瞬間から、私の意識は別の、何処か遠い場所へと逃避した。

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