No.4-6
彼女があの夜私のそばに来たことから分かる通り、彼女はレズビアンだ。それはあの戦場では別に珍しいことではない。しかし彼女とその部下達は多少異様であった。彼女のその部下達は各々の友情以上に愛情の面で強く結び付いていたのだ。彼女、イーデン・スタンスフィールドは多数の部下と関係を持っていただけでなく、その部下同士もまたそのような関係を結んでいることが多かった。
私もまた、彼女への信頼からその感情が移り変わり、やがて関係を結ぶに至った。
彼女は兵士の中でも珍しい教養人だった。彼女は何処かで教わったわけでもないのに本を読み、その知識を抱えたまま戦い続けていたのだ。
ある時彼女は、最前線にほんのちょっとの休息時間が生まれた時にぼそりと一言。
「西部戦線異状なし、だな」
と言ったので私は驚いて聞き返した。
「小説が分かる兵士なんて、聞いたことないです。あなた達はそんな風には作られなかったというのに」
私がそんな風な失礼な言い方をすると、彼女はにやりと笑った。
「初めからキリンの首が長かったわけじゃない。初めから象の鼻は長かったわけじゃない。そして、はじめから私達兵士は戦うために生まれたわけではない。それはよく知っているだろ? 多分な、私は変なんだよ。突然変異とか、そういう奴さ」
彼女が言い切った後、敵陣地から銃声が鳴り始めたので、その時点で会話は終わった。
次、彼女とそういった会話をしたのは、二人きりで野営キャンプの中で寝た時だ。
軍用の薄っぺらなシーツで寒さに耐えながら、私は彼女に質問をした。
「私、戦場に来て色んなことを知りました。その中でも一番驚かされたのは、貴方の存在です」
「初めてのことが恋しいのかい」
彼女はいつもこんな調子で夜のことを話すのだ。何の気恥ずかしさもなしに。
「え、えっと。そうじゃないんです。貴方は様々な意味で想定外でした。部隊の皆と関係を結ぶその性癖に、何処か賢者じみたその教養と言い回し……貴方は兵士の中でも、一番印象的です」
「別に私は節操なしってわけじゃないし、一兵士らしく足りない脳みそを持っているよ……そうそう、イレーヌ」
「なんですか?」
「古代ギリシャには神聖隊という部隊があったそうだ。機会があれば調べてみるといい」
それだけ言うと、彼女は何も言わずに眠り始めた。
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